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今月読んだ本 2013.03.31
柴田よしき
「回転木馬」「桜さがし」「流星さがし」「小袖日記」

猫探偵正太郎以来、柴田よしきさんがマイブームです。


「小袖日記」柴田よしき 2013.03.26

抱腹絶倒&ちょっぴりしんみりな次元スリップ小説。 面白かった〜(^o^)

主人公の女性は不倫相手から別れを告げられ一旦は死のうと思うが、思い直したところで雷に打たれる。 意識が戻った時、そこには心配して覗き込む「おかめ」の大群が!(笑)

川端康成の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は情景が目に浮かんでくる名文ですが、こちらの「おかめの大群」はビジュアルの衝撃度が凄すぎます! しかも、水鏡に映る自分自身さえも「おかめ」だったとは! 「ぎゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」と叫ぶ主人公の声が聞こえてきそうです(笑)

どうやら次元スリップしたらしい先は、日本の平安時代のような世界。 タイムスリップではないと判断した理由は重力がやや軽いから。 容姿が違うということは、その世界の女性と精神が入れ替わったのでしょう。 主人公は「小袖」と呼ばれる女性の脳の中にいるようです。 小袖の知識が主人公のこの世界での生活を助けていきます。 小袖はなんと、この世界の紫式部付きの女房で、源氏物語のネタ探しに奔走する役目を負っていました。 ゴシップ通な友人から世間の噂を聞き込みながら、ネタ探しを進める小袖です。

「夕顔」「末摘花」「葵」「明石」「若紫」の5章があり、それぞれのネタとなった人物や出来事の真相?が描かれています。 笑いあり、涙あり、怒りあり。 小袖の素直で現代的な受け止め方が共感持てます。

最初は「おかめ」の人々の識別ができなかった主人公ですが、この世界で暮らすうちに「おかめ」の美醜の判断ができるようになってきます。 美しいおかめとはどのようなおかめなのか、いちいち解説があって楽しいです。


「回転木馬」柴田よしき 2013.03.10

先日紹介した「観覧車」の続編。長編。

失踪した夫の探偵事務所を引き継いで探偵業を続ける下澤唯。 調査案件での追跡中に佐渡行きの高速船に乗り込む夫の姿を偶然目撃したことから、友人の探偵事務所に夫の捜索を依頼した。 既に夫の失踪から10年が経過しており、その後を追うのは容易ではなかったが、夫と佐渡との細いつながりを辿り、夫の後姿に一歩づつ近づいていく。 その過程で夫の失踪の謎も明らかになっていく。 そしてついに、夫が自分の意志で唯に連絡を取る日が―――!

うーむ、ネタバレしないように粗筋を書くのって難しい。 というか、粗筋になってない。 最後の一行はある意味ネタバレですね(^^; 

唯は捜索の過程で心に傷を負った複数の人物と巡り合います。 また、決して傷つけたくないと思う相手にも巡り合います。 そういった人物とのやりとりを通して、唯は自らの心の傷を傷つけ、慰め、そして信念を貫き通します。

「観覧車」と「回転木馬」、この連作はとても心に残る小説でした。 またじっくり読み返したい。 そう思いました。

「観覧車」は2003年出版。「回転木馬」は2007年出版。 今年読んだおかげで、続編出版までの4年を待たずに済みました。 もっとも、作中での時間経過(10年以上だと思う)と唯の切望を実感するには、ちゃんと出版当時に読んで4年待つべきだったかもしれません。


「観覧車」柴田よしき 2013.03.03

恋愛ミステリー?の短編連作集。

失踪した夫の事務所を継ぎ、慣れぬ探偵業を務める下澤唯。 友人の刑事には早く辞めろと忠告されるが、夫の居場所を残しておきたい一心で、そして半分は生きる糧のため、探偵稼業を辞めることはできない。 表題作は、失踪した会社員・遠藤の行方を捜してほしいという依頼にまつわる話。 手がかりは遠藤の愛人。 愛人は遠藤の行方不明以来2ヶ月も、京都・八瀬遊園の観覧車に乗っては帰る毎日を過ごしている。 追跡調査を続ける内、その理由に気づいた唯は―――。

依頼された事件の背景にある男女の情念と、失踪した夫を思う唯の情念とが経糸と横糸のように絡み合う作品。 読んでいて、なんともやるせない気持ちになりました。

短編集の時間的推移は、夫の失踪後3年から10年にまで及びます。 唯も夫の失踪の理由に一歩一歩近づいていくのですが、この短編集では解決や再開には至らず。 続編を早く読みたいです。


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