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クロイツェル・ソナタ(その2) 2001.07.25

クロイツェル・ソナタの聞き比べ、まだまだ続いております。次に買ってみたのは、クレーメル&アルゲリッチメニューインクレーメルはギトリスほど趣味じゃないけど、刺激的でおもしろい演奏です。ピアノのアルゲリッチはこっちのCDでも存在感溢れる演奏してるし。メニューインは優雅だけれど刺激がなくて、私にはとっても退屈〜(^^;
 ほーんと、演奏家次第で全然雰囲気変わるなぁ、と感心しつつ聞いてます。ギトリスメニューインなんて、同じ曲とは思えないくらい違うよぉ〜(^^;

こんなに複数の演奏を聞き比べたのは、クロイツェル・ソナタが初めてです。聞けば聞くほど味わい深く、ドップリとハマってしまってます。次は、チョン・キョンファ堀米ゆず子の演奏を聞きたいよぉ。

☆    ☆    ☆    ☆    ☆

小説「クロイツェル・ソナタ」も読みましたよー。どちらも暗い救われないストーリーですが、曲の扱い方に違いがありました。トルストイの小説は、妻とバイオリニストとの不貞を疑う夫が、二人の合奏を聞いて疑いを強め、妻を殺害するに至る、という粗筋です。登場人物にこの曲を演奏させ、それを聞く主人公の心に働きかける直接的な小道具としてこの曲を扱っています。一方、夏樹静子の小説は、推理小説なので粗筋は省略しますが、殺人事件を取り巻く複雑な人間関係の中で、燃え残ったカセットテープを再生して聞こえたクロイツェル・ソナタ(クレーメル演奏)が真相解決のきっかけとなります。「クロイツェル・ソナタ」のテープを、伏線として使っています。

小道具としての「クロイツェル・ソナタ」の使い方は、夏樹静子の方が洗練されていて上手いと思います。もっとも、推理小説には伏線がつきものですから、上手くて当然かもしれません。

トルストイの小説には、納得がいかない部分が複数あります。まず、二人がクロイツェル・ソナタを演奏する場面です。小説には、こう書かれています。

妻が最初の和音を出しました。あの男はきまじめな、厳粛な、感じのよい顔になり、自分の音色に耳を傾けながら、慎重な指で弦を抑え、ピアノに応じました。こうして演奏が始まったのです......【新潮文庫「クロイツェル・ソナタ」原卓也訳】
これ、間違ってます。クロイツェル・ソナタは、バイオリンの和音から始まります。ピアノではありません。バイオリンが1フレーズ弾き、続けてピアノが出てきます。トルストイは実際はクロイツェル・ソナタを聞いてないんじゃないでしょうか??(単なる勘違いかも)

また、トルストイは主人公に1楽章のことを、このように語らせています。

たしかに音楽は効果を発揮します、恐ろしい効果を発揮するものです。わたしは自分自身のことを言っているのですがね。しかし、魂を高めるなんてものじゃ全然ありませんよ。魂を高めも低めもせず、魂を苛立たせる作用があるだけです。【同上】
...いったい、間男のヴァイオリニストはどんな演奏をしたというのでしょうか(^^; 音楽の感じ方は人それぞれですから、トルストイがそう感じたっていうなら、そうなんでしょうけど。それにこの小説が書かれたのは1887〜1890年ですから、その頃は今とは演奏方法や曲の解釈が違っていたのでしょう。でも、それにしても、「魂を苛立たせる」ような曲じゃないと思うけどな〜。「不安を誘う」なら納得するけど。

まさかとは思うけど、トルストイが聞いていた演奏って、ギトリス&アルゲリッチのようなアグレッシブな熱演だったんでしょうかねぇ?でも、その後で、2&3楽章のことは「月並み」「迫力がない」ってこきおろしてるしなぁ。うーん、謎です。


コッキオーニ 2001.07.15

コッキオーニというのは、現代イタリアのバイオリン製作者の一人で、何を隠そう、私の楽器の製作者です。楽器に製作者のラベルが貼ってあるものの、筆記体が読めないため、製作者の名前なんて全く知らずにいたんですが、イタリアでバイオリン工房を開いていらっしゃる平原さんのおかげで、製作者が判明したんですよ!
 平原さん曰く 「師匠は、彼のローマで作った楽器を修理したことがあると言っていました。残念ながらにせものが作られるような有名な人ではないので、きりぎりすさんのVnはたぶん本物でしょう」 だそうです。

これが私の楽器のラベルです↓。(もちろん、この綴りは解読していただいてわかったものです)

E. Cocchioni
Perugia 1953

私には、1953年に製作された楽器だってこと以外さっぱりわかりません(^^; 綴りも確かではなく、CocchianjかなぁPeurgieかなぁPerugieかなぁと首を捻ってばかりでしたが、さすが本場!私が伝えたデタラメな綴りで、平原さんのお師匠さんはすぐさま解読して下さったそうです。

以下、教えていただいた、コッキオーニさんの来歴です。

Eraldo Cocchioni エラルド・コッキオーニ
1915年、ペルージャ生まれ。デザインと家具作りの学校を卒業。
1944年、独学で楽器を作り始めた。
1951年、フィレンツェで展示があった(展示会に出品した?)。
1953年時点で24台のヴァイオリンを作っている。
1957年、ローマに移住。
1985年時点で90台の楽器を作っている。主にヴァイオリンとヴィオラ。
初期の作品には、やわらかいタイプのアルコールニスが使われている。後は、黄金色のオイルニスを使った。
 以上、出展は、Rene Vannes ・Claude Lebet 著 DICTIONNAIRE UNIVERSEL DES LUTHIERS という1000ページくらいの「弦楽器屋大辞典」だそうです。さすがイタリア!こんな本があるんですねぇ。日本には、和楽器製作者大辞典なんてあるのかなぁ。あるといいな。

来歴をよく見ると、私の楽器が作られたのは、コッキオーニさんが楽器製作をはじめてからまだ10年経ってないんですね。本当に初期の作品ということです。後期の楽器だと、きっと技術が円熟して音色やデザインが変わってくるんでしょうね。興味あるなぁ。いつの日か、コッキオーニさんの後期作品を弾いてみたいです。今度から楽器展示会に行ったら、楽器のラベルの綴りをチェックしなくては。

概してイタリア製のVnは明るい音色がするそうですが、私の楽器もとても明るいキレイな音がします。←明るいを通り越して、根明な音で、深みがないの〜。本人と一緒〜(^^;
 この楽器を買った時は、楽器商の人が予算前後の楽器を3台持ってきてくれて、3台を弾き比べた結果、この楽器を選んだんです。一番深みのある音色(すごく憧れていた!渋い色合いのニスもよかった!)の楽器は弾いてみて違和感があったんですね。自分の個性にあった楽器が一番なんだな、って自分自身納得がいきました。
 いつも音色を「ピーヒャラピーヒャラ」とか「パッパラパー」とかってケナしてますけど、私の大切な愛器なのです。(そのわりに手入れを怠けてるのは内緒だ)


クロイツェル・ソナタ 2001.07.13

ギトリスの演奏を聞くまで、クロイツェル・ソナタがこんなにいい曲だとは夢にも思わなかった私。これはきっと過去に聞いた演奏に難があったに違いない!と、クロイツェル・ソナタの聞き比べを始めました。

☆    ☆    ☆    ☆    ☆

最初に聞いたのは、以前から持っていたパールマンの演奏。.....うーん、やっぱり、おもしろくない(^^; とてもじゃないけど、ギトリスの演奏と同じ曲とは思えません(^^;

聞き比べ用に新しく買って来たのは、まず、オイストラフの演奏。...これは、よかった!おもしろかった!全体を通してゆったりめのテンポで、「堂々と」というか「朗々と」というか「豊かな」というか、例えていうならば、まるで横綱相撲のような、「いつでもかかってきなさい」的な、懐の深さを感じさせる演奏なのです。さすがは巨匠!2楽章もゆったりしたテンポながら、歯切れのよいスピカート(しかし軽くはない)で、実に私好み!ギトリスとは全然違う演奏ながら、気に入りました。

次に買ったのは、クライスラーの演奏。....演奏以前に録音状態が悪すぎ〜(^^; ま、1935年の録音じゃ録音状態が悪くて当然だけど。演奏はそれなりに楽しめました。ちょっと早めのテンポで、でもスピカートはオイストラフよりもずっと甘く、モーツァルト・スピカート的な音の処理です。悪くはないけれど、今いち。クロイツェル・ソナタよりもスプリング・ソナタの方がクライスラーの演奏にあってる感じ。

さて、最後にもう一度パールマンをチェック。......やっぱり、おもしろくな〜い!!!
つらつら考えるに、曲想に比べて、パールマンの演奏って優美すぎるんですよ。少なくとも私にとっては。ふんわりとした音色と、全てが長めな音の終わりの処理は、同じゆったりしたテンポでもオイストラフとは全く異なった表現手法で、私にはとっても苦痛なんです。演奏を鑑賞する際の、よい意味での緊張感を全く持続できないんですよねぇ。←早い話が途中で飽きる(^^;

☆    ☆    ☆    ☆    ☆

ということで、聞き比べの結果は、「私がクロイツェル・ソナタを好きにならなかったのは、パールマンのせいだ!」という結論に達したのでした。今は、クロイツェル・ソナタの楽譜を買って弾いてみよう、な〜んて思ってたりするくらい、クロイツェル・ソナタを気に入っています。(フランクにはかなわないけど)

...パールマンの演奏って、昔は大好きだったんですけどねぇ。私が初めて演奏者を意識して聞いたのがパールマンなんです。彼の演奏は、音楽の喜びを感じさせる、きらきらと光り輝くような演奏で、聞くたびにワクワクしました。でも、よく考えると、ここ10年は彼のCDを聞こうともしなかったなぁ。今聞いても、彼のスプリング・ソナタには、春の喜び、音楽の喜びを感じるし、音色はキラキラと輝いています。本当に素晴らしい演奏だと思います。でも、今の私が何度も繰り返し聞きたくなるのは、ギトリスやオイストラフの演奏の方なんです。

パールマンに惚れ込んでた時代から既に20年。自分では意識してなかったけど、私の趣味が大きく変わってしまうだけの時間が経過した、ってことなんでしょうね。

#この文章書いた後でオイストラフ聞き返したら、パールマンよりずっとテンポが速いことに気づきました(^^; お願い、パールマン、もうちょっとテンポあげて弾いてぇ〜!

☆    ☆    ☆    ☆    ☆

ところで、どうせなら小説「クロイツェル・ソナタ」の方も読み比べをしようと、本やタウンでトルストイ夏樹静子を注文しました。この週末から読み始める予定。読み終わり次第、感想をアップしまーす。


イブリー・ギトリス 2001.07.04

先月来、ギトリス(Vn)にハマりっぱなしです(*^o^*) 先月書いた文章読み返してみたら、ぜーんぜん熱狂度が足りないのね〜。今のほうがもっとずっとハマってます。熱狂してます。あんなもんじゃないです!

知人に指摘されるまで気づいてなかったけど、ギトリスさんて、ご老人だったんですよぉ。見た目は確かにご老人なんだけれど、演奏のパワーに、もう少し若いと錯覚していた。でも、webで見つけた情報によると、1998年の時点で既に70代後半だそうです(^^; もしかしたら、今は80を越えていらっしゃるかもしれません。でも、彼の演奏からはそんな年齢だなんて、とても信じられません。あの確信犯的な技術の使い分けと独特の節回しは、歳の功ならでは、と思ったりもするけれど、それにしてもパワフルすぎます! だって、壮年のアルゲリッチと演奏で競り合ってるんですよ!?

ギトリスの特徴は、なんといっても、テンポやリズムをすごく揺らして強調する、独特の節回しにあります。演歌のこぶしのようというか、歌舞伎の見得きりのようというか、くどく、しつこく、強調する。もぉ、私のツボにピッタリはまって、タマリマセン!(*^o^*) くうぅ〜!

CDのライナーノーツによると、アルゲリッチ音楽祭以前に、一時期活動休止され、その後復活された、とのこと。活動休止の理由はわかりませんが、ちょっと心配になりました。これからもお元気で、個性豊かな演奏活動を続けていただきたいものです。ご自愛くださいませ。


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