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今月読んだ本 2013.10.31
羽海野チカ
「ハチミツとクローバー 4〜10」
榎本まみ
「督促OL修行日記」
渡辺和子
「置かれた場所で咲きなさい」

督促OLさんは、置かれた場所で咲いた人なんだなぁ。しみじみ。


「ハチミツとクローバー 全10巻」羽海野チカ 2013.10.10

大学時代に住んでいたアパートの先輩から「ハチクロに当時住んでたアパートとそっくりなアパートが出てくるよ」と聞き、図書館で借りて読みました。

美大に学ぶ学生たち6人の青春をコミカルかつシリアスに描いた漫画です。 青春の弾けるような楽しさと切なさを思い出させてくれました。 笑いながら、泣きながら、読みました。 漫画の最後は、6人がそれぞれの未来に向けて歩み始めるところで終わります。 フィクションとはいえ、彼らの将来に幸多かれ、と願わずにはいられませんでした。

先輩から聞いたとおり、男子学生たちが住むアパート「6畳+台所3畳、風呂なし、大学まで徒歩10分、木造築28年、家賃3万4千円」が学生時代に住んでいたアパートに激似です。 私が住んでいたアパートは「4畳半、台所共有、風呂なし(大家さんちで貰い湯)、大学まで徒歩15分、古〜い木造、家賃1万3500円」でした。 xx年前とはいえ、女子学生が住むにしてはチープな環境でした。 あの頃は貧乏だったな〜。 仕送りはあったけど、皆バイトで生活費を稼いでいました。 ベッドやベンチやカーテンを安い材料で自作していました。 暖房は炬燵だけ。 私は3年間テレビ無しで過ごしました。 テレビも自転車も、卒業した先輩から譲ってもらいました。 住人たちは皆仲良く、毎日賑やかに暮らしていました。 そういうところもハチクロのアパートにそっくりです。

当時を懐かしく思い出しました。 大家のオバサンの大声をもう一度聞きたくなりました。 Sさん、この本を紹介して下さってありがとうございました。


「置かれた場所で咲きなさい」渡辺和子 2013.10.06

この本がベストセラーになっている、と聞き、図書館で予約して読みました。 さすがベストセラー、図書館の在庫は27冊もあるのに予約順は100番を遥かに越え、半年以上待ってようやく手にすることができました。

「置かれた場所で咲きなさい」
このテーマだけで1冊の本を書いたとしたらすごいことだ、と思っていたら、やはり違いました。 心に沁みる言葉の数々とその解説(?)数ページ、という構成の本です。 キリスト教の教えに基づく言葉、ご自身の経験で得られた言葉、などが綴られています。 仏教詩人の詩に基づく言葉もあり、宗教家には異なる宗教であっても相通ずるところがあるのだなと思いました。

本のテーマである「置かれた場所で咲きなさい」の他にも、私の心に沁みた言葉が複数あります。

  • 「“あなたが大切だ”と誰かにいってもらえるだけで、生きてゆける」
  • 「苦しい峠でも必ず、下り坂になる」
  • 「何もできなくていい。ただ笑顔でいよう」
  • 「ふがいない自分と仲良く生きていく」
  • 「毎日を『私の一番若い日』として輝いて生きる」
  • 「あいさつは『あなたは大切な人』と伝える最良の手段。
     目立たない仕事をしている人へのあいさつを忘れてはいけない。
     私たちはお互いに『おかげさま』で生きているのだから」
  • 「希望には叶わないものもあるが、大切なのは希望を持ち続けること。
     希望の喪失は、生きる力の喪失でもある。
     心の支えがあれば、どんなつらい状況でも耐え抜くことができる」

著者の渡辺和子さんはノートルダム清心大学学長を長く勤められた方。 29歳で修道会に入り、86歳の今日まで精神社会に身を置かれています。 彼女の父親は2.26事件で犠牲になられた方の一人で、彼女は襲撃の際に隣に寝ていた父親に座卓の陰に隠され、座卓の陰から彼の最後を目撃したのです。 当時彼女は9歳だったとのこと。 9歳で目の当たりにした、父の殺される姿はどんなに衝撃的だったことでしょうか。 この経験が彼女を精神社会へと進ませたのではないかと想像します。

正直、偽善に感じる言葉もありましたが、彼女はそれらを実践している方です。 大学の学長ということは、経営者でもあるということです。 忙しさに心を無くすことも多々あったでしょう。 実際にそういう心持ちになったこともあったと書かれていました。 でも、そういう自分に気づき、最終的には「愛」を持って相手や自分に接することを忘れない。 素晴らしい信念だと思います。


「弦と響」小池昌代 2013.10.01

たまたまどこかで見かけて、面白そうと思って図書館で借りて読みました。

結成して30年になる鹿間弦楽四重奏団が解散することになった。 鹿間弦楽四重奏団のメンバーは、1stVnの鹿間、2ndVnの文字(もんじ)、Vaの片山、Vcの伊井山の4人。 最年長の伊井山が引退を決めたことをきっかけに、団長の鹿間が解散を決めたのだった。 ラストコンサートまで、メンバーやカルテットを取り巻く人々の様々な思いが駆け巡る―――

メンバーや周囲の人々の独白によって構成されたこの小説。 団長の鹿間は沈黙して己の心を語らないとのことで、彼だけは作者が代わりに語ります。 この構成は面白かったけれど、もっと知りたい気持ちをすっとかわされるようなところがあり、欲求不満が残りました。 でも、多くの人の色んな気持ちがラストコンサートに寄せられていて、その集大成としてのラストコンサートには感動がありました。 認知症の初期症状をみせる伊井山の体調がどうなるか、最後までハラハラしましたが、無事ラストコンサートを終えることができて良かったです。

団の関係者だけでなく、最後までラストコンサートとは知らずにストレス解消のためにたまたま演奏会を聴きに行くことにした聴衆の女性の独白もあります。 ラストコンサートで彼女がのめり込むようにして聴いている姿が描写されており、ああ、聴衆にもそれぞれの人生があって、それなりの理由を持って演奏会に来て、それぞれに感動を持って帰っていくんだなぁと思わされました。

小説表紙のタイトルの「弦と響」の背景には五線譜が描かれています。 そして、五線譜の右端には終止線が描かれています。 これって鹿間弦楽四重奏団の終わりを表しているのかなぁと思いました。

表紙で一つ気になることが。 水晶玉に映ったカルテットが演奏するイラストが描かれているのですが、この配置が逆順になっています。 水晶玉に映る姿って鏡映しになるのかしら?


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