今月読んだ本 | 「ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」」高瀬毅 | 「弥勒の月」シリーズ あさのあつこ |
今月読んだ本 | 2013.08.31 |
---|---|
今月は結構読書したけど、感想はほとんど書かなかったなぁ。 なんというか、余韻を噛み締めてます。 |
「ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」」高瀬毅 | 2013.08.22 |
---|---|
長崎に原爆ドームが無い理由に関するノンフィクション。 長崎には本来、原爆ドームとして残されるべき廃墟がありました。 それは浦上天主堂。 今ある浦上天主堂は戦後に再建築されたもので、同じ場所にあった戦前の天主堂が長崎原爆によって廃墟となったのでした。 当時、天主堂を原爆の遺構として残そうという運動がありましたが、決定権を持つ当時の長崎大司教と長崎市長とが撤去を決めたそうです。 その背景には、長崎浦上地区がカトリック教徒の多い土地柄であったことがありました。 寄付だけでは保存費用や移転費用を賄えなかったことも大きな理由です。 長崎市長は保存派でしたが、アメリカ側からの招待に応じてアメリカの複数都市を歴訪し、帰国後は保存に消極的になったそうです。 カトリック教会からの圧力とアメリカからの圧力。 その内容は当時の大司教と市長が亡くなった今、知る術はありませんが、それらに屈してしまっただろう当時の状況がよくわかりました。 なぜ広島では原爆ドームを残せて、長崎では残せなかったのか。 長崎で原爆ドームを残せなかった当時の背景はわかりましたが、広島との違いを明確にするためにも、広島で原爆ドームを残せた理由について言及して欲しかったです。 8月は戦争や平和について考える機会が多い月です。 本当は一年中意識していないといけない事なのでしょうが、平和な日常の中では忘れてしまいがちです。 8月だけでもきちんと向かい合おうと思います。 |
「弥勒の月」シリーズ あさのあつこ | 2013.08.02 |
---|---|
あさのあつこさんの「弥勒の月」「夜叉桜」「木練柿(こねりがき)」「東雲の途(みち)」を図書館から借りて、一気読みしました。 このシリーズもブログ友達に教えていただきました。 nさん、いつもありがとう! あさのあつこさんは人物造形が巧みですね。 登場人物が皆、今この世に生きて生活しているかのようにいきいきと描かれています。 このシリーズは、同心の木暮信次郎と小間物屋の遠野屋清之介の二人の人物を中心に展開していきます。 清之介の妻おりんが身投げで亡くなった際に清之介が愁嘆場を演ずることなく静かな動作に終始していたことが信次郎の興味を引き、また清之介がおりんの死の真相究明を信次郎に求めたことから、二人が絡み合う物語が始まります。 同心の性格が、今までの捕り物帳とは全く異なるのが面白い。 信次郎は怜悧だけれど、人としての何かが欠けている歪んだ性格をしています。 変哲のない事件を退屈に思い、己の琴線に触れる歪んだ事件を待ち望んでいます。 作中に記述がある通り、動乱の世にこそ活躍するタイプの人で平穏な世には不向きな人。 その信次郎が清之介の暗い過去の匂いを嗅ぎ取り、「俺の獲物」と称して清之介に執着します。 信次郎の傍には岡っ引きの伊佐治がついています。 この伊佐治が人情味溢れる典型的な岡っ引きで、歪んだ信次郎とはいいコンビになっています。 清之介は元武士ですが、生国を脱藩し、江戸でおりんと出会って愛し合い、小間物屋の婿に入りました。 温和な物言い・物腰と確かな商才で、小間物屋を繁盛させます。 暗い過去を背負っていますが、強く真直ぐな心の持ち主で、信次郎とは対極にある人物。 やる事なす事がいちいちカッコいいです。 清之介の妻おりんは「弥勒の月」の冒頭で亡くなるのですが、結末で明らかになる身投げに至った背景があまりにも哀れです。 思いあった清之介と結ばれ、幸せな生活を送っていたはずなのに。 弥勒のようだと清之介が思い返すおりん、おりんの母親おしのが思い返すおりん、は心の強い人だったはずなのに。 菩薩のような、とはよく聞く表現ですが、弥勒のような、という表現を見たのは初めてです。 菩薩と弥勒の違いは何だろう? ウィキペディアで調べた内容を要約すると「仏教における身近な現世利益・救済信仰の対象が菩薩であり、菩薩の一つが遥か未来で人々を救う弥勒菩薩」だそうです。 清之介は己の心と未来を救ってくれたおりんを、弥勒に例えたのですね。 そのおりんが自分の心を救済できなかったのは、より一層哀れです。 清之介の暗い過去は物語が進むにつれて明かされていき、「東雲の途」では過去と対峙すべく生国へ赴くまでに至ります。 しかし、信次郎の内面の形成については経緯があかされません。 人情味溢れる同心の息子として生まれ育ったのに、なぜそのように生まれついてしまったのか。 私には信次郎の人となりが興味深いです。 「東雲の途」で清之介の過去話は一旦完結したと思うけど、今後も過去からの干渉が無いとは限りません。 シリーズはまだまだ続いていくんじゃないかな。 信次郎と清之介が今後どのように絡み合っていくのか。 信次郎の過去に焦点があたることはあるのか。 次作を待ち望んでいます。 このシリーズ、「弥勒の月」「夜叉桜」「木練柿」の3冊が既に文庫化されています。 面白かったので、文庫版で買おうかな〜どうしようかな〜、と迷っています。 |