鯨統一郎

「千年紀末古事記伝 ONOGORO」

佐村河内守

「交響曲第一番」

パトリシア・Ａ・マキリップ

「妖女サイベルの呼び声」

三上延

「ビブリア古書堂の事件手帖２」

久々の読み返し。お気に入りの幻想小説です。

エルド山に住む魔術師サイベル。 祖父と父が呼び集めた不思議な力を持つ獣たちの世話をし、新たに大きな雪白の鳥ライラレンを心の声で呼ぶ静かな日々を過ごしている。 ある日、静かな生活に変化が起きた。 サールのコーレンという若者が赤ん坊を抱いて現れ、「あなたの親族にあたるこの子を育ててほしい」と言い置いて去ったのだ。 タムローンという名の赤ん坊を育てて12年。 タムが自分がエルドウォルド王の息子だということを知り、父に会いたい、と懇願したことからサイベルの運命は大きく変わり始めた―――

この小説がお気に入りな理由は、まず、伝説にのみ名を残すという不思議な獣たちの魅力に魅せられたこと。 大きな翼と黄金色の目を持つティルリスの黒鳥。 ただ一つを残しあらゆる謎の回答を悉く知る赤い目と白い牙の猪サイリン。 緑の翼をもつ竜ギルド。 王の財宝にも匹敵する毛並みの色つやを持つライオンのギュールス。 呪術と玄妙不可思議な魔力の持ち主として巷の語り草となっていた巨大な黒猫モライア。 7人の男を八つ裂きにした青い目の隼ター。

サイベルと獣たちは心の声によって会話をするのですが、サイリンだけは人間の言葉を口に出して話すことができます。 憎しみに囚われるサイベルに、サイリンが語った「巨人のグロフは片目に礫を喰らった。するとその眼は裏返って彼の心を覗き見た。彼はそこに見たもののゆえに死んだのだ」という謎かけは実に辛辣で的を射ています。

サイベルがエルド山に籠っている間は登場人物が限られるのですが、タムが王を慕い、下界と係わりを持った以降は登場人物がどんどん増えていきます。 登場人物の容姿や性格の描写がほとんど無い（←これは後書き読むまで気づかなかった）にも関わらず、登場人物が皆見事に描きわけられ、小説内で生き生きと生きています。 そして、ストーリー展開にぐいぐい引き込まれます。

この小説はサイベルの成長物語でもあります。 サイベルが愛することや憎むことを学び、氷の姫からだんだん人間らしくなっていく変化が描かれています。 憎しみのあまり、陰謀に身を染める場面もありますが、それらを乗り越えてのハッピーエンド。 読み応えあります。

面白さに、何度も読み返したこの小説。 オススメです。

ちなみにこの小説、漫画家の岡野玲子さんが「コーリング」というタイトルで漫画化されています。 こちらもオススメ。 マキリップの小説の空気感を具現化し、登場人物が皆イメージ通りの姿で登場するのがさすがです。

大河時代小説「御宿かわせみ」シリーズの新世代編(明治編)第1巻。

江戸幕府から明治維新への大変動の中、御宿かわせみシリーズも世代交代を迎えました。 神林東吾の甥、神林麻太郎がイギリス留学から帰ってきたところから新シリーズが始まります。

幕末の動乱の中で、かわせみの人々も大きな変化を迎えていました。 東吾は榎本武揚の要請を受け軍艦で蝦夷に向かう途中で破船沈没、行方不明となりました。 麻生家の祖父、母七重、長男小太郎が屋敷に侵入した賊に惨殺されました。 麻生家の事件の調査をしていた畝源三郎は何者かに銃撃され、亡くなりました。 この新シリーズ第1巻では、旧シリーズ終了から新シリーズ開始までの出来事の解説と明治の御宿かわせみの登場人物の紹介をしながら、麻太郎の新しい生活が落ち着き、そして麻生家や源三郎の殺害犯人を見つけて捕えるまでが描かれています。

麻太郎は築地居留地で新進気鋭の医師として働くようになりました。 東吾の娘、神林千春は母るいと一緒にかわせみを切り盛りしています。 源三郎の長男、畝源太郎は父の殺害犯を探す傍ら、「よろず探索承り候」の看板を掲げて生計を立てています。 殺害犯を捉えた後は、司法の勉強を始めました。 麻生家の長女、麻生花世はかわせみに下宿して女学校で勉学の傍ら、助手も務めています。 麻太郎の両親、神林通之進と香苗は方月館の隣に隠居所を設けて移り住んでいます。 花世の父、麻生宗太郎は方月館で診療所を開いています。

雇人も世代交代しています。 かわせみの嘉助は大番頭になり、番頭を方月館の女中おとせの長男、正吉が務めています。 女中頭のお吉は相変わらずですが、若いお晴が女中頭代理として活躍しています。

すっかり世代交代してしまった御宿かわせみの面々。 東吾とおるいの時代に馴染んだ読み手としては、新世代の活躍にはまだ違和感があります。 まるで「おとなグリコ」を見ているようです。

CMの「おとなグリコ」は将来のワンシーンを切り取っただけでしたが、「新・御宿かわせみ」はこれから新シリーズとして続いていきます。 東吾＆おるい世代の一読者として、子供たちの活躍ぶりを見守っていきたいと思います。

ところで、ウィキペディアによると、新・御宿かわせみのTVドラマがBSスカパーで始まっているようです。 真野響子さんら、30年ぶりのオリジナルメンバー集合だそうです。 うう〜、見たい！　 残念ながら、我が家には視聴環境が無いので、諦めるしかありません。(T_T)