今月読んだ本 | 「夜を抱きしめて」リンダ・ハワード | 「とりかへばや物語 全訳注」桑原博史 | 「ざ・ちぇんじ!」氷室冴子 | 「悪魔が来りて笛を吹く」横溝正史 | 「悪魔の手毬唄」横溝正史 | 「蝶々殺人事件」横溝正史 |
今月読んだ本 | 2012.07.31 |
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不要本を処分しようと本塚を整理中です(本棚に入りきらないので本塚があちこちにある)。 そのついでに、おもしろかった本を読み返しています。 |
「夜を抱きしめて」リンダ・ハワード | 2012.07.31 |
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ラブ・サスペンス物。 アイダホ州の山奥の寒村トレイル・ストップでB&Bを営む未亡人ケイト。 ロッククライミング客や狩猟客の宿泊、村人への朝食サービスで生計を立てながら、4歳の双子を育てている。 古い下宿屋はよくあちこちが故障し、村の便利屋カルに修理代と下宿代を引き換えに下宿してもらおうかと思うほど。 ある日、B&Bの宿泊客が荷物を残したまま姿を消し、その数日後にB&Bに武装した男が二人やってきた。 男たちの目的は謎の宿泊客の荷物。 カルの活躍もあり、男たちは荷物を持って引き上げたが…。 荷物の中に目的のものは無く、カルに殴られ逆上した二人組は、村を封鎖しての復讐&奪回作戦を決行する。 携帯電話は通じず、電線は切られ、唯一の橋も爆破され、村は完全に孤立する。――― おもしろかった! カルは例によって海軍SEALの退役軍人。 ケイトの前にでると顔を赤くし無口になる、という設定が可愛い。 ケイトも最初はカルを男性とは意識していなかったのですが、ある日突然、カルが交際対象となる男性であることに気づきます。 この辺の意識の変化の描写がおもしろかったです。 孤立した村から助けを呼びに行くために、ケイトは昔取った杵柄で、ロッククライミングで村の奥の岩場を登ります。 カルに一方的に助けられるだけでなく、二人協力し合って窮地を逃れる。 小説とはいえ、そんな逞しい女性って素敵ですね。 |
「とりかへばや物語 全訳注」桑原博史 | 2012.07.14 |
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昨日レビューした「ざ・ちぇんじ!」の原作です。 平安時代末期に成立した物語。 物語名の「とりかへばや」は「とりかえたい」という意味です。 性と性格が真逆な兄妹を、兄は女に、妹は男に、取り替えて正常になってほしいと願う父親の嘆きに基づくもの。 途中までは「ざ・ちぇんじ!」とほぼ一緒なんだけど、そこから先が激しくドロドロしています。 妹君は親友の宰相中将に手籠めにされて子供ができてしまったり、その子供を捨てて宰相中将の元から出奔したり。 兄姫も遊び相手をしている間に女東宮を手籠めにし、これまた妊娠させる。 自分の意志で出奔した妹君はまだしも、女東宮と妻の四の姫は男に振り回される一方です。 それが当時の貴族の女性のありかたとはいえ、現代の女性としては読んでいてむかつく場面も多々あります。 むかつきながらも、ストーリー展開がおもしろいので、読み続けずにはいられません。 出奔後、兄姫と妹君の入れ替わりは無事成功します。 2人の入れ替わりの最大のネックである髪の長さの違いは、妹姫が宰相中将に囲われている間に唐渡りの秘薬を毎晩塗って伸ばした、とあります。 妹姫に逃げられた宰相中将が、同一人物と思い込んでいる兄君の青々とした髭ののびしろをみて混乱するくだりは笑いがこらえられません。(^o^) 最終的に兄妹二人は位人臣を極め、ハッピーエンドとなります。 ハッピーでないのは、子を捨てざるをえなかった母(妹姫と女東宮)の心と、元宰相中将(最後は内大臣に昇進)の納得がいかない気持ちだけです。 最初は真面目に原文を読んでいましたが、ストーリー展開がおもしろいので原文読むのがまどろっこしくなり、途中からは原文は流し読みになっちゃいました。 まあ、真面目に読んでも原文は理解しきれないので、結局は訳文頼みなんですが。(^^ゞ |
「ざ・ちぇんじ!」氷室冴子 | 2012.07.13 |
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昔読んだ少女小説(昭和58年文庫化)を読み返しました。 新釈「とりかえばや物語」です。 ドタバタ喜劇で、とっても面白いですよ〜(^^) 時は平安時代。 権大納言の男勝りな長女「綺羅君」は世間には男として通っており、本人も男のつもりで行動している。 一方、病弱なあまりに女として育てられた長男「綺羅姫」は世間にも深窓の令嬢として通っており、綺羅君の妹ならさぞかし美女に違いないと男性達の間で噂が飛び交う。 当時の成人式、元服(男)と裳着(女)を許さなかった権大納言だが、主上の鶴の一声で長女の元服と長男の裳着を執り行なわざるを得なくなった。 2年後、順調に昇進した綺羅中将(姉)は右大臣の三の姫と結婚し、綺羅姫(弟)は主上の妹である女東宮の遊び相手をするため典侍として出仕する。 綺羅中将が世間を欺くのに疲れてきた頃、綺羅中将の親友の宰相中将が三の姫に夜這いし子供ができてしまった! さあ大変!――― 原作の「とりかへばや物語」の込み入ったストーリーを簡略化し、男女関係は少女小説らしくソフトに書き換え、不幸になる人が誰もいないハッピーエンドに仕立ててあります。 文体は軽く明るくテンポのよい文章で、登場人物は皆生き生きとしており、楽しくすいすい読み進めます。 氷室冴子さんは大好きな小説家です。 まだ50代で亡くなられたのが本当に惜しまれます。 二人の入れ替わりの最大のネックは、髪の長さの違い。 氷室冴子はそれを、女御入内を迫られた綺羅姫が入内を嫌がって出家しようと激情のあまり自ら髪を切ってしまう、というお芝居をさせることで解決しました。 もちろん、綺羅姫が切った髪の毛は弟姫が入れ替わりの際に切った髪の毛を取ってあったものですし、主上が綺羅姫のことをおとなしいが内に激しいものを秘め持つ姫と認識するための伏線は物語の始めに書かれています。 その伏線を経て、二人は相思相愛になっている設定です。 この事件により綺羅姫の入内は髪がもう少し伸びるまで延期され、主上は男女入れ替わった後の綺羅姫が間違いなく以前の姫君だと思い込むのでした。 小説発表当時は恋愛の進度をABCで表すのが流行っていたのですが、この小説ではそれが「いろは」となっています。 妻の三の姫に「いろはって何?」と質問されて答えられない綺羅君(←奥手なので知らないという設定)。 当時は大笑いして読んだものですが、今でもまだ笑えました。 また、平安時代には伝来してなかったであろう薔薇。 なので、薔薇族をすみれ族と言い換えてあったり。 言葉選びが巧みでした。 この小説、漫画にもなっています。 漫画は小説に忠実に描かれていて、こちらも面白いですよ。 |
「悪魔が来りて笛を吹く」横溝正史 | 2012.07.05 |
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これも久々の読み返しです。 昭和22年、故、椿元子爵令嬢の美禰子が金田一の元を訪れた。 父である椿元子爵は、天銀堂事件の容疑を受け失踪し、遺体となって発見されたのだ。 美禰子は、母あき子が父らしき人物を目撃したとおびえていることから自宅で砂占いを行うことになったと告げ、砂占いへの同席と、本当に父が死んだのかどうかを確かめてほしいと依頼する。 砂占いは計画停電の時間帯を選んで実施されたが、停電が終わった直後、フルートの音が聞こえてきた。 椿元子爵作曲の「悪魔が来りて笛を吹く」のメロディーである。 音源は蓄音機の細工であったが、騒動の後で砂占いに現れた火炎模様に椿家の皆が気づき、動揺を見せる。 その場は解散となったが、翌朝、椿家に同居するあき子の伯父、玉蟲元伯爵が死体となって発見される。――― 犯人は覚えていましたが、トリックや動機はさっぱり忘れていました。 これもTVドラマで見た覚えがあるのですが、「悪魔が来りて笛を吹く」はどんな曲だったかなぁ。 悪魔の手毬唄と違って、メロディーは全然記憶にありません。 (まあ、手毬唄は単純だからね) 斜陽となった貴族社会が舞台ということで、泥臭い岡山県シリーズとは雰囲気がちょっと違います。 人間関係が込み入っているのは、貴族社会ならではでしょうか。 他の長編に出てくる音楽とは違ってフルートという西洋楽器を使っているのも、きっと舞台が貴族社会だからなのでしょうね。 要所要所で「悪魔が来りて笛を吹く」の曲が流れるよう犯人が蓄音機を仕掛けていくのですが、その目的は何なのか? 最後の最後にこの曲の仕掛けが明かされます。 そこで初めて、なぜフルートなのか、なぜこの曲だったのか、やっと納得がいきます。 |
「悪魔の手毬唄」横溝正史 | 2012.07.04 |
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久々の読み返し。これは覚えてましたが、おもしろく読みました。 昭和30年夏、金田一耕介が磯川警部の紹介で岡山県鬼首村に静養にやってきた。 金田一が逗留する亀の湯の主人は昭和7年に殺されており、犯人は捕まっていないという。 磯川警部は、あわよくば20年前の事件の謎解きをと企んで、金田一を紹介したのだった。 おりよく、村の出世頭、タレントの大空ゆかりが故郷に凱旋するという。 村中が歓迎に賑わう中、庄屋の末裔、放庵が失踪する。 それを皮切りに、鬼首村手毬唄の歌詞通りの連続殺人事件が始まった――― 昔、古谷一行の金田一耕介シリーズでTVドラマ化された時にリアルタイムで見ていました。 原作では歌詞だけの手毬唄に節がつけられ、歌われていました。 古い昭和の暗い映像に、少女の歌う手毬唄がおどろおどろしく響き、とても印象的でした。 手毬唄の歌詞を見た途端、節が脳裏に蘇りました。 手毬唄の歌詞にあわせた見立て殺人なのですが、手毬唄は第2の殺人が起きた後で初めて金田一に明かされます。 金田一はこの手の唄は3つ続くことが多いと第3の事件を予測するのですが、防ぐことができず、第3の殺人が起こります。 が、それは人間違いで、正しい(?)殺人が起こる前に事件が解決します。 狙われた人物が一人生き残ったのが、せめてもの救いかな。 |
「蝶々殺人事件」横溝正史 | 2012.07.03 |
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久々に読み返した作品ですが、すっかり忘れてました。 昭和12年、オペラ「蝶々夫人」大阪公演の直前に、歌劇団の主宰者である原さくらが失踪した。 公演当日、コントラバスのケースからさくらの死体が発見される。 さくらの夫、原総一郎の依頼により、探偵、由利麟太郎は三津木俊助と共に大阪を訪れ捜査にあたるが、第二の殺人が起きてしまう。――― 由利先生モノ。 犯人の仕掛けが二重三重に念の入ったもので、捜査が東京と大阪を行ったり来たりします。 読んでいて目まぐるしくて、推理どころじゃなかったです。 じっくりと腰を据えて読みこまないといけないのでしょうが、つい先を急いでしまいます。 雑誌掲載時には、問題提示が終わったところで読者による推理を募集するという企画を実施したそうです。 残念ながら正解者はいなかったとか。 |