【THOMASIMA】 著:ポール・ギャリコ
           創元推理文庫

石のように非常な心臓、かたくなな意思、そして人並みはずれた身勝手さ。自らの人生に対する挫折感。医者になりたくて、父親の意向に背けずに獣医となったが故の仕事に対する侮蔑の感は、そのまま、診療所を訪れる甘やかされ放題のペットやその飼い主に向けられる。仕事に誇りを見いだせず、動物に愛情も関心も持てない彼は、妻を失って以来、溺愛してきた娘、メアリ・ルーの飼い猫トマジーナが病気になった時、安楽死を選択する。
それ以来、心を閉ざしてしまった娘。
そんな現実に為すすべもなく、苛立ちをつのらせる彼はある日、町の外れに住む、「赤毛の魔女」「いかれローリ」との出会う。
大切な家族を殺された娘の悲しみと父親への不信感。失った娘からの信頼を取り戻す課程は、獣医マクデューイが動物や隣人に対する愛を取り戻す課程でもある。誰よりも救いを求めながら、神にすがれない男の魂の救済と再生の物語。

しかし、尊大で不遜、無神論者な彼一番共感できる辺り私も、なんともはや。子供なんて、無自覚に残酷で狡猾だから嫌いだ。


いまこそ夜の女王にしてナイルのほとりなるブバスティスの猫の女神、セクメト・バスト・ラーの力と慈悲をお目にかけよう。