【つかの間に愛を】

つかの間に愛を
ラブより、エロを

描いてしまうのは、私がひねくれている上に、尚かつ、変に純情なので、ラブは恥ずかしくて仕方ないから。
むしろ、シリアスより、高校生なんだから、エネルギー有り余って、ガンパレード状態で、
Hなことしてぇぇぇ〜〜〜と、なっているのが、それらしいかな。
こんな高校生いたらイヤです。夢見すぎだ自分。

瀬戸口は、壬生屋の横顔に視線を走らせた。
壬生屋は正しい姿勢でステアリングを握り、まっすぐ進行方向を見つめていた。口元には柔らかで、不思議な微笑が浮かんでいた。
瀬戸口は眼頭を指圧した。肩の力を抜いて、ため息をついた。
「夜ってのは、いいな」
「なぜ?」
「夢を見られる」
壬生屋は窓を少しだけ開けた。アクセルを踏み込む。夏の夜風が頬に刺さる。
「この風も夢ですか?」
「夢だよ。いつも思うんだ」
瀬戸口は腕組みした。
「俺は、ここに存在しているんだろうかってな」
壬生屋の口元が引き締まった。
「不安になる。自分の存在に疑問を持つなんて馬鹿げてるとは思うんだ。でも、本当に俺がここにいるのか自信がない」
「どうすれば、自分が存在していると感じられますか?」
「女を抱くことかな」
瀬戸口は軽く冗談めかして答えた。壬生屋の反応を伺う。
瀬戸口の意に反して、壬生屋は考え込んだ。
「女も……男の人に抱かれれば、自分の存在を実感できますか?」
「さあな。女のことは、わからん。ただ、俺は、女の肉を掌で押さえつけているとき、存在をつかまえたような気分になれる」
「そうやって女の人を口説くのですか」
壬生屋の口調にほんのわずか非難めいた色が滲む。
瀬戸口はニヤッと笑った。
「あほぅ。俺はいつも素直にやらせてくれと頼むだけだよ。存在の不安なんて気恥ずかしいこと口にするか」
壬生屋は、ステアリングを握り進行方向を見つめたまま、瀬戸口の方をふりむきもしない。軽くため息。
「私は、まだ男の人を知りません」
「だろうな」
「でも、自分が存在していると実感できる瞬間があるんです」
「どんな?」
「私の手で、幻獣の命を終わらせる瞬間です」
瀬戸口は首を傾げた。
「意味がわからんな」
「………幻獣を殺す瞬間に、自分が生きていると実感するのです」
瀬戸口は体を起こした。壬生屋を凝視した。
「私の手で、幻獣が死んだ時だけなんです。壬生屋未央がここにある。と感じられるのは」
瀬戸口は苦笑した。
「難儀なことだ」

花村満月「紫苑」より