【八妖伝】 著:バリー・ヒューガット
        早川文庫

李高老師と其の元依頼人にて現在助手として働く十牛は、道教界最高指導者の賜朱笏神光東暁至崇至遠秘儀上天師の依頼をうけ大官が異形のものに殺される事件を調査する。
事件の裏には、現後宮宦官による中国茶の密輸組織が。
そして、其の昔、神話の時代に異教の神々として葬り去られた世にも恐ろしい異形の怪神達が蘇り北京の夜を跋扈する。
惨殺される密輸組織に関わった大官達。
事件の鍵を握るのは八つの鳥籠。そして、八人の怪神達。
五月五日の端午の節句を目指し、事件は収束していく。

「あ、あの、老師、ものには時と場合っていう、その、、」

事情聴取に出かけた大臣宅の応接室で飾られている蛙形水滴(蛙をかたどった小さな焼き物)を、躊躇いなく盗みさるわ。
不慮の事故でうっかり殺してしまった太守の寵童を料理してしまうわ。

と、今回も相変わらず李高老師は傍若無人に駆けめぐり。

心優しき力持ちの十牛君は、李老師に振り回されているようで誰よりも事件の本質を体で掴んでいる。

「わしらの遠祖はこの地からひとつの民族と文化をそっくり根絶やしにし、めぼしいものは何であれ奪い取って作りかえた。神学者風に言えば、侵略と同時に天命あらたまり、古い神々は新しい神々にとってかわられて弊履のごとくうち捨てられ、中でも力のある危険な神々は同じ廟にまつられて位や役割や名誉でなだめられ、同化したわけだ」

恐ろしくも美しく、そして物悲しい。醜い怪神達の物語。
八怪神の弟に当たる九番目の神「嫉妬」
全てを滅ぼそうともくろむ「嫉妬」の行為そのものすら、天命に組み込まれているようで、明るい絶望と共にいきているような「嫉妬」が、酷く切なく感じる。