さよなら −さよなら−

たった4文字の言葉。その意味は他愛も無いものから重くのしかかるものまで様々。

あの時の僕は、それが後者だとは露ほどにも思っていなかった。



「・・・さよならっ!!」

「お、おい!?」

ツーツーツー

一定間隔で鳴る電子音。通話が打ち切られたと言う事実だけを、僕に投げ付けていた。

脱力から自分の身体をベッドに転がし、何気なく携帯を眺める。そこには「YUKA」と彼女の名前が入ったストラップ。

ちなみに、彼女のストラップには「KAZUYA」と自分の名前が入っている。どっかの観光地で面白半分に薦めてみたら

彼女がとても気に入ったので買った代物だ。それを見つめながら、

「なんとかなるだろ・・・」

と今回のケンカを安易に考え、そして呟いていた。



翌日。

明らかに自分の言った言葉に非があるので、謝ろうとした。が、事態は昨夜の考えでは利かないほどになっていた。

メールを打っても返信がなく、通話は指定拒否のようで、何度か鳴らしてみたが話中の電子音しか流れない。

結局、どうにかなるわけも無く、打ちひしがれるままに今までとこれからを考える事にした。



「・・・んん・・・」

「あ・・・」

朝、考える間も無く眠りに落ちていた事に気付いて、体中の力が抜けた。



「・・・ってなっちまったんだ」

悩みを聞いてくれと頼んだところ快く頷いてくれた友人に経緯を話した。

「お前、一体何言ったんだよ?」

当然の疑問。だが、痴話ゲンカみたいな内容を言う訳にはいかないと思い、曖昧に答える事にした。

「・・・ん、んー・・・無茶な交換条件・・・かな」

「相当アホな事を口走ったんだな。深くは聞こうとは思わないけど」

「あぁ、最悪なくらい」

何となく察してくれたらしい。

「うーん・・・一応返すけどな、参考程度だからな」

友人はひとしきり考えたあと、そう前置きして話し出した。

「まぁなんだ、別れ話まで行ってないんだったら、そんなに心配しなくても良いんじゃないか?」

「はぁ」

あー、そういうもんなんだ・・・。でもそれだったら、音信不通にまでならなくても良いんじゃないか?

「一人で考えたい事でもあるんだろ。気長に・・・って、どこ見てんだよ」

「え?いや」

明後日の方向に視線が行ってた。考え事をする時の癖だ。それが見事にばれた。

「はいはい。悩みってのは話せば楽になるって言うしな。考えはまとまったか?」

友人は最早投げやりになっていた。

「・・・悪い」

「まあいいや。今度何か奢れよ」

と、奢りの約束をする事になってしまった。

事実、気分は楽になったのでそれくらいの礼はしておくべきなのだろう。

『一人で考えたい』

確かにそうだろうけど、部屋に閉じこもってるタイプでは無いし・・・。気休めかも知れないけど行ってみるか。

そう思い、今日からデートで行った事のある場所を見て回る事にした。



3日後。とりあえず近場から中・大型デパートの他にカフェを何店か行ってみたが進展は無かった。

そして今日の取っ掛かりは雑貨屋から。今日で大体回り切ってしまう予定だった。

「明日から振り出しに戻る、か・・・」

ため息をつきながら雑貨屋へと向かう角を曲がる。

ドンッ

「わっ」

身体に衝撃が走る。

しまった。塀が建っているために見通しが悪くなっているこの角は、いつもなら大回りしているはずだった。

「す、すみませんっ」

慌てて謝った。

「こちらこそ、ごめ」

「由佳?」

ぶつかった相手も謝ろうとしたが、途中で彼女だと気付き、言葉を遮る。彼女も僕に気付いたようだ。

「あ、カズくん」

「今、時間大丈夫か?」

「いいよ」

僕の誘いに彼女は微笑んで答えてくれた。



人通りの少なくなった通りを並んで歩く。

「あーあ、見つかっちゃったなぁ。探してくれてたの?」

口火を切ったのは彼女だ。

「そう」

「ふーん」

何から話せば良いか迷ったが、謝る事から始める事にした。

「ごめんな」

「ん?」

「この前の電話の事」

彼女が聞き返してきたので、一言付け加えた。

「うん。メールは見てたよ。それにちょっと魔が差しちゃっただけなんだよね?」

「う、うん。だったら・・・なんで?」

魔が差していたのは確かなので、それに頷き、次いで音信不通に付いての説明を求めた。

「えっとね。一人の世界ってどんな感じかなのかなって、思い立ったの」

「・・・そ、そっか。ど、どうだった?」

余りに突拍子も無い事に言葉が詰まるも何とか聞き返した。

「余り面白くなかった。今日のあの店もそう」

そこまで言って彼女は僕の前に出て振り向く。

「だからもう二度とあんな事やらないで」

真剣な眼差しと願い。

「分かった」

「絶対よ」

「ああ、絶対な」

力強く答える。その念押しにもはっきりと答えた。すると、彼女はおどけた感じで

「よろしいっ」

と言い、僕に近寄る。

チュッ

唇にふんわりとした感触。それがキスだと分かるまでには少し時間がかかった。

「これからもよろしくね♪」

気付いたころを見計らってか、彼女が笑顔で言う。

「よろしくな」

僕は笑顔で返した。




あとがき