ここからの国際協力

                                          岡山大学大学院保健学研究科保健学専攻検査技術科学分野

助教 柴倉 美砂子

 みなさん国際協力していますか?え?検査室が火の車で国際協力どころではない?そんな小さなことを言わないで、少しグローバルな事を考える時間を持ってみましょう。医療従事者が最初に思いつく国際協力というと、海外青年協力隊、AMDA、国境無き医師団などに参加する崇高な援助と思ってしまう人も少なくないのではないでしょうか。少し敷居が高いと感じる方が多いかもしれませんね。

2007年3月、保健学科では国際交流推進ワーキンググループの活動として、国際交流や国際協力とはどういったものかを考えるために、タイ東北部にあるマハサラカム県立病院とマハサラカム看護大学の見学・および看護学生との交流を目的とした研修旅行を企画しました。私は引率教員の一人としてその研修旅行に参加しました。主たる目的が看護大学訪問と学生同士の交流であったので、病院内の見学というのは数時間でしたが、検査室を見学することができました。技師長が英語で大まかな説明をしてくださったのですが、何しろタイ訛り英語と日本訛り英語のやり取りで聞き取れなかった部分もありました。検査室の詳細をここでは述べませんが、とても印象的だったのは、大きな日の丸シールを貼った一台の分分析器が動いていたことです。タイで臨床検査技師に出会って、同じ分析器を使って働いている姿をみて、どこの国でも臨床検査は存在するのだと強く再認識しました。また、日本でも感じる検査室特有の空気、技師たちの雰囲気をタイでも感じました。「こんな検査室のこういう検査技師、日本にもいる!」といった感覚です。

国際協力というと、英語ができなければ!と、まず気負い。何かしてあげなければ!という援助精神を持ちがちで、実際に行動する前に気疲れしてしまうのではないかと思います。「国際協力」とは、なんだか難しい話のように聞こえますが、つまるところ人間同士の交流なのだと今回の研修旅行で学びました。海を隔てた遠い国で、飛行機を乗り継いでやっと出会えた人たちでしたが、同じ志を持つ人間として学びたいと思う気持ちや、検査技師としてこうありたいと思う気持ちは同じです。そういうお互いの気持ちを理解して、日本に帰って、ふっとタイの人たちを思い出す。これも一つの国際協力なのではないかと思いました。気にかけるだけでいいのです。世界のどこかで起っている事件や紛争を無視しないでいただきたいと思います。たとえば、その時に何もしなくても、気づくこと知ることで人の意識や行動は変わってくるものだと思います。そんなみなさんと関わった誰かが、行動を起すかもしれません。

中規模以上の病院であれば、アジアからの研修生なども多いのではないでしょうか。彼らは発展途上国から日本の高度な技術やシステムを学びにきた人々でしょう。その人達と向き合ったとき存在する立場の(つまるところ経済状態の)違いから出てくる思いやりが大切なのです。その人が国に帰って伝える私たちの姿や日本。それを聞いた誰かが、日本に留学したいと思うかもしれません。研修生を通じてみなさんがその国に興味を持ち、旅行に行くかもしれません。同じ線上に立った平坦な視線が、健全な人材循環や血の通った協力を生み出すように思います。タイの検査室の、あの分析器の冗談じみた日の丸など貼り付けなくてもいいのです。それを「日本から来たものだよ。」と、うれしそうに見せてくれるタイの検査技師。きっと良い交流や協力がなされたのでしょう。

臨床検査は決してなくなりません。たとえ、縮小・統合・改革、どんな風が吹いても私たちは必ず医療で必要とされる職種です。だから時には目先の検査室だけでなく遠い所も見てください。「タイでは分析器を立ち上げたところかな。」「タイでもこんな機器を使っているのかな。」。そう想像するところから国際協力は始まります。そして、そんな余裕が、私たちの直面している数々の問題を解決する力を与えてくれるのではないでしょうか。世界の誰かと関わる時、私たちは一人ではありません。日本、岡山大学、病院、検査技師の代表として、背中にいくつもの小さな旗を掲げています。その旗はどこに行ってもなくなりません。そのことを忘れないでいただきたいのです。私たちは、臨床検査技師として、患者様、病院スタッフのみならず、社会、広く世界に見られていることを意識して行動する必要があります。視線を意識し始めたとき、私たちの活躍の場は、ますます広がっていくでしょう。

温かい視線の交わる国際協力。今から始まる、ここからの国際協力を皆さんも意識していただきたいと思います。

 

同窓生だより

卒後1年を迎えて

氏平晶子


 昨年4月に地元の津山中央病院に就職し、もう1年が過ぎました。大学生の頃は早く社会に出て働きたいと思っていましたが、今は友達と楽しく学んでいた頃のことが懐かしく思われます。

病院では一般検査、血液検査、生理検査、腹部エコー、検診など様々な分野を曜日ごとにローテートさせてもらっています。大学の時から好きだった分野に進みたいと思っていたのですが、まだ自分に何の分野があっているのかもはっきり分からないことや、やりたいことがいろいろできるという利点もあり、今の職場で毎日楽しく働いています。しかし、やはり実習と仕事は違い、責任感をもってやらなければいけないことが多いことを実感しています。特に一人で行う当直では自分の判断に任される部分も多く、あいまいな判断にならないよう気をつけています。

1年間働いて実感したこと、それは『笑顔を大事にすること』です。基本的なことですが、目をみて、きちんと笑顔で応対することで、患者さんの気分も、職場の先輩方の気分も優しくなるように感じられます。

まだまだいろいろなことを教えていただいている身ですが、これからもしっかり学んでいきたいと思います。

<卒後10年>

杉井 恵子


 私が就職したのは、個人の産婦人科医院で、そこでは不妊治療を行っており、体外受精もしている病院でした。入った頃は、先生の助手的な仕事をするのだろうと思っていましたが、実際にはほとんど臨床検査技師がしていました。先生が採卵したら、技師は、卵があるかないかシャーレの中で瞬時に見つけ、その卵を前培養し、調製した精子をかけて受精させます。次の日、受精の確認をし、さらに分割したら子宮の中に戻します。

 この仕事は技術も知識も必要なので、研修を受けに行くなど最初の頃は大変でした。しかも患者さんの大切な卵を扱うという点で、かなりプレッシャーもあり、失敗は許されない状況です。そんな中で、体外受精をした患者さんが、妊娠したと聞くととても嬉しく思いますし、その時が一番、今までこの仕事をしていて良かったと思う時です。

 大きい病院では、検査室の中だけで患者さんと接する機会が少ないと思いますが、その点個人病院では患者さんと話す機会が多くあり、良かったと思っています。(患者さんと言ってもほとんど妊婦さんですが・・・)

 私には、「最初の職場で10年は働く」という目標がありましたが、結婚し出産すると育児が大変で、3年前に退職しました。今では、「体外受精がある時は、応援にきてね」と言われて、月に何度か行っています。また、子供が大きくなったら、同じような仕事をしたいなぁと思っています。

<卒後20年>

臨検13期 糸島 昌恵


 卒後20年の原稿依頼をいただいて‘え〜!!もう20年もたっちゃったの〜!!’って思わず叫んでしまいました。そういえば周りには若い人ばかりでいつの間にか上から数えるほうが早くなってしまっている。自分の年なんて忘れたつもりだったけど、なんだか現実をつきつけられた思いでした。私が就職した当時は今から思えば、とてものんびりした時代だったように思います。生化学検査室に配属されたのですが、当時はまだまだ用手法が多く、1人の技師が1つの項目を担当なんてざら。自動分析装置にいたってはメモリーが300検体分しかなく、午前中で1回データをクリアするという今では考えられない代物でした。検体希釈にはサンズのピペット。これがなかなかうまく使えず恐怖の代物でした。ノック式ピペットに替わった時はほっとしたものです。今ではどこでもあたりまえになっているコンピュータによる発生源入力システムの導入も私が就職した年にはじまり、就職第1日目にして運用テストやらでわけもわからず遅くまで残業し、とても疲れたのを覚えています。時代は流れ、現在の生化学検査室は回転寿司の様に検体が1人で回り、勝手に分析器にかかり膨大な検査結果が本当にあっという間に出てくる。検査項目数も昔とは比べ物にならないですよね。

この20年の間に私自身も生化学検査室から血液検査室、そして中央採血室と担当する検査も立場も変わってきました。今は採血室で毎日多くの患者様に接するようになりその対応に四苦八苦しています。たった今癌であることを告げられた患者様を目の前になんと言ってあげればよいのかわからなくて情けない思いをすることもあります。でもいろんなことを患者様から教えていただき、私も少しは成長できたかなあと思っています。

検体検査をしているとどうしても、検査が‘物’になってしまいますが、こうやって採血業務に携わっていると検査の向こうに患者様がいる、ただの‘物’ではないという実感が湧いてきます。そしてほんの少しでも患者様のお役に立ちたい、自分にできることは何か?そんなことを考える日々を送っています。

 

卒業生だより

「 新生活を向かえて」 
            
 保健学科検査技術科学専攻 5期生  江口 麻衣子


 岡山大学を卒業し早くも3ヶ月が経とうとしています。卒業して私たちは、各病院施設への就職し社会人になったり、あるいは大学院へ進学しさらに専門分野の知識や技術習得を目指したりとそれぞれの進路へと進んでいます。
社会人になって改めて感じるのは、4年間で学んだ検査や医療に関する知識や検査技術の基礎理解の大切さです。しかし何より強く感じるのは、四年間、共に笑い、共に困難を乗り越え、共に同じ時間を過ごした仲間の大切さと、最後まで熱心に指導してくれた先生方への感謝の気持ちです。岡山大学で過ごした4年間は本当にかけがえのない大切な時間でした。特に私たちの検査専攻は1学年40名という少人数制で、講義や実習は高校時代のクラス制に似ていて、その分、検査専攻の友人たちと過ごす時間はとても多く密度の濃いものでした。
社会人になった今そうした人たちとのつながりが、自分をサポートしてくれ、時に大きな力を与えてくれることを改めて実感しています。これからもこうした周りの人たちへの感謝の気持ちを忘れずにいたいと思います。

「 卒後2ヶ月が過ぎて」 
            
保健学科検査技術科学専攻 5期生  山本 有紀


 この春、岡山大学を卒業して2ヶ月が経ちました。
 大学生活をふりかえると、とても充実した4年間だったと思います。もともと医学に興味があり、高校生のときに自分の進路を考えるにあたり、臨床検査技師という道を選びました。心電図や超音波検査、血液などの日常業務に直接関わること、また、遺伝子などの研究分野に関すること、様々なことを4年間で学ぶことができました。心臓超音波検査の実習で初めて自分の心臓が拍動する様を見たときは本当に感動しました。しかし、学生の頃はやはり授業を受身の姿勢で聞いてしまうことが多く、実際に臨床検査技師として働き始めて、もう少し学生の時期に自ら学ぼうとして学んでおくべきだったと反省しています。
 大学生活は授業だけでなく、課外活動も充実していました。部活動は陸上競技部に所属していました。練習は津島の陸上競技部と一緒に行っていたので医学部以外の学生との交流もありました。全く異なった分野を学ぶ友人たちといろいろ話せたことで自分の視野もいくらか広がったと思っています。
 働き始めて2ヶ月の新米技師ですが、活躍されている先輩方に続けるよう、頑張っていこうと思います。
最後になりましたが、4年間の大学生活を共に楽しんだ友人、部活動でお世話になった先輩方後輩方、興味深い講義、実習をしてくださった先生方、その他お世話になった皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。 
 


<岡山大学医学部保健学科検査技術科学専攻5期生卒業研究テ−マ>


【H18年度 前期】

1. 蛍光蛋白質アザミグリーンを導入した発現ベクターの構築と蛋白質の細胞内局在性解析を目指して 遺伝子解析学(石川先生)
江口麻衣子 西田ゆかり
2. 動脈硬化促進の危険因子に関する新しい臨床検査指標の検討 臨床化学検査学(一村先生)
赤澤明日美 木曽仁美
3. 20代健康人のHelicobacter pyloriの感染率について 細菌学(横田先生)
森本識子
4. in situ hybridizationによる胆汁検体中のHelicobacter hepaticusの検出 細菌学(横田先生)
片岡千鐘
5. Alxを用いた寒冷昇圧試験時の心血管応答の解析 生体情報解析学(岡先生)
永井仁志
6. 在宅用生体情報収集装置による睡眠障害レベルの簡易評価 生体情報解析学(岡先生)
片山昌子
7. 海馬錐体細胞死におけるFc受容体の役割 -カイニン酸局所注入モデルの検討- 高次機能解析学(岡本先生)
小山晃英 吉川純子
8.ワクチ二アウイルスの増殖に対する香料の効果の検討 ウイルス学(荒尾先生)
木浦大典
9. 単純ヘルペスウイルスの膜融合活性と細胞刺激能の相関 ウイルス学(荒尾先生)
小見山清未
10. 肺腺癌における樹状細胞の種類と分布 病理形態学(高橋先生)
井上那美 坂根由美
11. SLE患者血清中の抗核抗体が認識する核抗原の同定 免疫検査学(唐下先生)
新井麻衣子 荻野明日香
12. 呼気凝縮液(EBC)による喘息患者のモニタリングシステムの開発 生体機能学(片岡先生)
倉重善江 増田育美
13.血中スフィンゴミエリン濃度測定とスフィンゴミエリナーゼ活性測定の基礎的検討 医療保健情報学(池田先生)
安東敬弘 定兼幸紀


【H18年度 後期】
14. ヒトヘルペスウイルス6型の増殖を制御するウイルス蛋白質の細胞内局在解析 ウイルス学(荒尾先生)
大久保学
15. 急性移植片対宿主病におけるセレクチンの役割 血液検査学(中田先生)
村田歩美 山本弘基
16.Fascinのヒト非免疫組織 特に小脳における分布 病理形態学(高橋先生)
光野絵美
17. 寒冷昇圧試験時の心血管系臨床指標の検討 -PWV、血圧、血流量に着目して- 生体情報解析学(岡先生)
藤原守 吉岡美保
18. 免疫能評価指標としての唾液中成分の検索 免疫検査学(唐下先生)
小川浩司 栗田恵利
19. 呼気凝縮液(EBC)中のNOの検討 生体機能学(片岡先生)
平城瑶子 外薗里美
20. 錐体細胞死とミクログリアの活性化におけるバルプロ酸の作用 高次機能解析学(岡本先生)
原亜希子 藤本侑子 
21. ヒアルロン酸刺激したヒト単球における炎症反応機構 臨床病理学(草地先生)
寺迫飛鳥
22.IV型コラーゲンα3鎖のNC1ドメインによるがん休眠療法 臨床病理学(草地先生)
穂並聖子
23. ペリニューロナルネットにおけるBral2を中心としたECM複合体の解析 臨床病理学(草地先生)
渕上真希
24. アストロサイトと細胞外マトリックスの相互作用による血管新生関連因子の発現解析 臨床病理学(草地先生)
丸山奏恵
25. ベーチェット病における炎症に関与している細菌抗原の解析 細菌学(横田先生)
若林里英
26. H.pylori感染によるマクロファージレセプターDEC205の発現 細菌学(横田先生)
山本有紀
27. 音楽刺激により量が変化する唾液蛋白質の網羅的解析 遺伝子解析学(石川先生)
北村奈央子 中西理沙
28. 高HDL血症における血中リゾホスファチジルコリンの分布 医療保健情報学(池田先生)
掘井祥子


〈岡山大学医学部保健学科検査技術科学専攻 4期生 就職・進路状況〉


 進 学 (6名)
    
   岡山大学大学院保健学研究科修士課程  2名
   岡山大学医歯薬学総合研究科修士課程  1名
   大阪大学大学院生命科学分野修士課程  1名
   信州大学大学院医学系研究科修士課程  1名
   鹿児島大学大学院医学研究科修士課程  1名
 

  就 職 (35名)

  1) 岡山県内施設:16名

岡山済生会総合病院(2名)
津山中央病院
チクバ胃腸科外科病院
倉敷記念病院
旭川荘療育センター児童院
倉敷中央病院(3名)
岡山旭東病院
倉敷成人病センター(2名)
岡山市立市民病院
岡山労災病院
岡山県赤十字血液センター
三宅医院

2) 県外施設:19名

和歌山県立医科大学附属病院(和歌山)
藤元早鈴病院(宮崎)
アロカ(株)(東京)
九州大学附属病院(福岡)
鐘紡記念病院(2名,兵庫)
黒川病院(山口)
福山市立市民病院(広島)
三次市市立市民病院(広島)
山口県立医療センター(山口)
北九州市立市民病院(福岡)
大阪医療センター(大阪)
高槻赤十字病院(大阪)
国家公務員共済 高松病院(香川)
島根県立中央病院(島根)
大阪市立大学附属病院(大阪)
 
                             以上

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