<ご  挨  拶>

『独立行政法人化後の保健学科の現状』
岡山大学医学部保健学科 岡本  基

国立大学が法人化(国立大学法人という)されてまもなく1年になります。この1年は、とにかく大学から文部科学省に出す書類の作製に追われました。中期目標、中期計画、文部科学省への概算要求(特別教育研究経費)、文部科学省や学内重点配分経費(学長裁量経費)の申請書、個人評価、教員評価、シラバス、物品購入、成績等々数えたら切りがありません。どうしてこうなったかと言うと、文部科学省の言では「独創性をもった高度専門職業人の育成と個性輝く大学づくりのために大学が独自の中期目標、中期計画を立てて教育研究を活性化する」のだそうです。しかし、私の実感は講義の準備や学生と実験、議論をする時間を削って、「私はこんな良い教育目標を立てて、こんな良い工夫をした教育をやっています」という作文を書いているだけです。文部科学省の掲げる目標と相反することをしているとしか思えません。しかし、重点配分経費の申請書や科学研究費、学外研究費を獲得しないと大学院生や卒業研究のお金がありません。
 いきなり愚痴になりましたが、現状を少し分かっていただけたと思います。法人化前の平成15年に保健学研究科前期(修士)課程ができ、平成17年度には後期(博士)課程ができます。また、医療教育統合開発センターをはじめ学部、研究科を統合したいくつかの組織が2〜3年の間にできると思いますので、中期計画の第1期が終る4年後には、かなり姿が変わっているでしょう。こうした動きの中で、臨床検査技師について計画していることがいくつかあります。ひとつは保健学研究科前期課程に細胞検査士のコースをつくることで、これは難しくありません。社会人として、働きながら修士、博士が取れる道を拡大するのも課題です。21世紀は健康政策が重要な課題のひとつですが、保健学研究科を活用して、臨床検査技師が健康診断、人間ドックだけでなく、健康管理や健康教育、健康データの評価、検査試薬や機器の開発、環境計測等健康政策にも関われる道を開きたいと思います。これに関しては専門健康教育士、実践健康教育士など取得可能な認定資格もいくつかあります。ちょっと飛躍したことも考えています。臨床検査技師という検体検査と人体検査ができる医療職種は日本にしかありません。これを、発展途上国、とくに東アジアにおけるコメディカル教育のモデルにできないかと思っています。東アジア諸国の留学生を受入れて臨床検査技師にし、その国に臨床検査技師学校をつくったらどうかという訳です。これは、ちょっと難しいかもしれません。
 時代があまりにも上滑りをしているので、つい我々も突飛なことや上辺だけのことを考えてしまいますが、医療人の基本は変わることはありません。教育の基本、目標は同じです。ただ、ここ10年余り、ずっと心配していることがあります。年々、学生の気質が変わっていることです。挨拶や礼儀もですが、何より気になるのは、人を当てにして、自分で勉強し、自分で考え、自分で道を切り開こうとする学生がだんだん少なくなっています。そのくせ、妙に成績を気にします。短期大学部から「考える検査技師、自分で問題を見つけて解決できる検査技師」をスローガンにしてきました。文部科学省も課題発見、解決型学習をうたっています。「それなら手取り足取り教えないはうがいい」はずなのに、「この科目の達成目標はどうで、それを達成するために教材や講義をこう工夫しました」とコンピュータに打ち込んで小学校のようなことをしています。ただし、それは大学から義務付けられて仕方なしやっている面もありますが、そうしないと学生が講義についてこれないという面もあります。先頃、文部科学省が「ゆとり教育」を全面的に見直すと発表しました。来年の春、平成18年度からはその「ゆとり教育」を受けた学生が入ってきます。今度は、「課題解決型学習」を見直すのでしょうか。

 

同窓生だより

『卒後1年』
医学部保健学科検査技術科学専攻2期生 元島 舞子
(長崎大学医学部・歯学部附属病院)


 私は長崎大学医学部・歯学部附属病院に就職しました。現在微生物室で働いています。
 私が臨床検査技師を目指したのは、ある映画に出会ったのがきっかけでした。その映画はウイルスを題材にしたストーリーで、幼かった私に、目に見えない小さな生物がこんなにも人間に影響を与えるのかと、とてつもない衝撃を与えてくれました。それ以来微生物に興味を持ち、微生物に関わる仕事をしたいと思っていたのです。そんな私だったので、実際に微生物室に配属が決まったとき、心から嬉しく思いました。
 しかし、実際社会に出て働く、ということは、とても厳しいことでした。特に自分の出した検査結果がもたらす患者様への影響の大きさを考えたとき、命の重みとその責任感をひしひしと感じ、働き出した最初のころは手が震えて、仕事がはかどらなかったりしたものです。もうすぐ働き出して1年が経ちますが、ようやく自分の出した検査結果が患者様の治療の役に立っている、と思えるようになりました。臨床検査技師としてはまだまだ半人前ですが、そう思える時は臨床検査技師になってよかったと思える瞬間です。
 医療は進歩し続けており、検査の分野でもより正確、精密なデータが出せるようになってきています。同時に機械化が進み、まだまだ人の手がかかると思っていた分野ですら多くが機械任せにできるようになってきていると聞きます。しかしそれに甘んじることなく、多くを学び、医療の進歩・機械化と上手に付き合っていける臨床検査技師を目指していきたいと思っています。
 臨床検査技師は現在就職も難しく、自分の希望する分野で働けることが大変難しい現状ですので、興味あることを仕事にできたことをとても幸せなことだと感じています。初心を忘れず、これからも頑張っていきたいと思います。

『卒後10年』
医療短期大学部6期生 柴田えりこ(淳風会健康管理センター)


 私が医療短期大学を卒業して10年が過ぎました。
 「もう」10年か「まだ」10年かといえば「もう」10年が過ぎたという感じです。
 この10年の間に、公私ともいろいろなことがありました。大学も4年制になりましたね。
 今思えば、大学時代が懐かしいです。自分では気分的には大学時代と変わっていないつもりです。
 が、社会人になり、10年勤めている間に中身は多少なりとも(外見はかなり??)成長したのではないかと思います。
 今現在は生理検査をしています。数年前には検体検査もしていました。
 検査技術・検査機器は日々進歩しています。検査技師を続けて行く上で、今の状態に満足していてはいけないし、常に新しい情報・知識をとり入れることが必要なのだと思います。
 はたしてそれが自分自身できているかどうかは疑問ではありますが、いろんな意味でこれからも世の中の流れに置いていかれないようにしたいと思う今日この頃です。

『3年次編入への1年間』
臨床検査技師学校11期生 高橋 紀子


 ちょうど20年前に臨床検査技師学校の3年生だったのに、今も大学3年生。編入試験を受けて、医学部保健学科に紛れ込んだ。(いや、浮いてるって……)
 前期に履修した「教養生物学(生物工学入門)」は初回に学生が教室からあふれて、次は突然教室が工学部に変更され、危うく迷子になりかけた。工学部は何号館まであるのか、とにかく建物が多い。期末試験がないから人気があるのかと思ったが、実際には毎回小テストやレポート提出があり、講議の内容量も多く、ハードではあるが面白い講義だった。
 後期には講義が英語で行われる「薬学の最前線」を履修してみた。少人数で行われる講義をとってみたかったし、教養教育科目の英語が物足りなかったので。この講義は毎回別の教官が英語で行うのだが、用意した原稿を読むのが精一杯の先生から、いかにも英語でのプレゼンに慣れている感じの先生まで様々。この講義に出ていた学生は留学生2人と日本人5人くらい。講義の内容はなかなか面白く、薬学部の薬用植物園も見学させてもらった。
 通年で履修した「フランス語初級T(文法)」「フランス語初級U(文法)」は、しんどかったけど楽しかった。最初は暗号を解読するような読み方しかできなかったフランス語が、簡単な文なら英語字幕と日本語字幕が2段で流れていくイメージができてきた。語学は若い学生よりも年寄りのほうが有利で、第4の言語にもなると効率良く習得するツボも分かる。
 専門基礎科目で大変だったのは前期の「医用物理学」と後期の「医用工学入門」。1年生に混じって3年次編入生も必須科目なのだが、先生が「はい、ライセンス〜」と編入生を名指ししていぢめる…… それはともかく、微分・積分・虚数・ベクトル・アークタンジェント、全てきれいに忘れている。高校は文系だった自分がかつて習ったかどうかも定かではない。
 特に履修して良かったと感じた科目は、「チーム医療演習(チュートリアル)」と「看護・介護演習」。保健学科の1年生と3年次編入生の3専攻8〜9人がひとつのグループになる。同じ課題でも専攻が違うと視点も異なり、良い勉強になった。我々編入生の看護・介護演習は三朝医療センターで。1泊2日の温泉・宴会で歓待を受け、これもすご〜く酔い、じやなくて、良い勉強になった。
 もうひとつ、特に履修して良かった専門科目が「画像解剖学実習」。献体された解剖体を自分達の手で触れるのは、貴重な体験だった。献体を決断された方々に感謝。
 この1年は自転車で走り回って講義を受け、小テスト・課題提出・レポート提出・期末試験に追われ、あっという問に過ぎていった。それでも、3年次編入の仲間はみんな成人なので、検査の編入生5人でほとんど毎月飲み会をやっている。

 

卒業生だより

「卒   業」
喜多野実香


 平成13年4月に岡山大学に入学してから、早いものでもう4年、卒業を迎えようとしています。この4年間を振り返ってみると、多くの人たちに支えられてきたことを改めて感じました。日々の講義、レポート、試験・・・そして日々の生活において、先生方、先輩方、友人の指導、協力があってこそ、乗り切れたと思っています。
 医療業界はこれまでになく、コスト面において厳しい状況におかれています。臨床検査技師の業務についても改革が求められるでしょう。例えば、病気の発症前診断やオーダーメイド医療のための遺伝子検査を行ったり医師の診療の効率化、患者さんの待ち時間の短縮といった情報システム開発に関わることになったりするかもしれません。3年制の医療技術短期大学部から4年制課程へ移行し、さらには大学院が設置されました。厳しい状況ながらも臨床検査技師の活躍する場は広がっています。実際、医療メーカー、研究機関など、病院以外で活躍されている先輩方もいます。私自身も、病院内にとどまらず、他の場でも活躍できるオールラウンドプレーヤーとなっていきたい。そして、先輩たちが残してくれた、築いてくれたものを壊さず、後輩に引き継いでいけたらと考えています。ただ、そのまま引き継ぐだけでなく4年間で培ったものを加えて伝えたいと思います。
 卒業というゴールもつかの間、私たち保健学科3期生はそれぞれのスタートラインに立とうとしています。学生という、ある意味受身の立場から、今度は社会に対して技術・知識・サービスなどを提供する立場になります。4年間の経験を糧にして、社会に貢献していきたいと思います。
 最後になりましたが、4年間、支え励ましてくださいました先生方、岡山大学中央検査部職員の皆様、その他多くの皆様方にお礼申し上げます。

「キャンパス ライフ」
中村麻衣子


 初めて岡山という街に訪れ、2000年春から岡山大学で大学生括を過ごし2004年の卒業まで本当に様々な人との出会いがありました。初めての出会いは岡山大学入試のとき面接官をされていた先生方でした。緊張のあまりどの先生方の顔を見ても、とても気難しく厳しそうに見えましたが春になって実際お会いすると親切でおもしろく魅力的な先生方でした。そしてもうひとつの出会いは部活の勧誘による先輩方でした。私は3つのサークルでそれぞれ魅力ある先輩方と出会いました。ボート部ではマネージャとして周りの人への気配りとやさしさを学び、琵琶湖では西医体での優勝を経験しとても感動しました。落語研究会では個性あふれるユニークな仲間に囲まれて日本文化のエンターテイメントを極めたり、厳しい伝統のうえで社会の上下関係ならぬ常識も教わりました。また笑いを通して老若男女問わず多くの人と触れあうことで誰とでも気軽にコミュニケーションをとれるようになりました。テニス部では先輩後輩関係なく勝つことへの闘争心を燃やし、爽やかに汗を流しました。地元長崎を離れて一人暮らしの初体験もしました。新しい土地での初めての一人暮らしと大学生活に期待に胸を膨らましていました。いざ一人での生活が始まってみると新しい土地や大学生活に慣れるのと、掃除・洗濯から食事の準備など家事と勉強の両立でとても忙しくまた寂しさからホームシックになりかけました。そんな時、気の合う友人との食事や岡山の土地を知った先輩方との交流で元気になり明日への活力が生まれました。多くの暖かい友人と親身になって相談を聞いてくれた先輩方、そして有意義な講義をしてくださった先生方に囲まれ精一杯大学生活を満喫しました。この岡山大学での経験を将来への掛橋としてさらに自分の可能性を高めていきたいです。


〈岡山大学医学部保健学科検査技術科学専攻 3期生 卒業研究テーマ〉


【H16年度 前期】

1.P.acnes感作による実験的肉芽腫形成の検討 生体機能学(片岡先生)
岡 真起子 武村洋子
2.筋音図の発生メカニズムに関する考察
  −EMGセンサの製作とMMG及び筋内圧の測定−
生体情報解析学(岡先生)
喜多野実香 山下晶子
3.核Matrix Attachment Region DNA (MAR)を認識する自己抗体の解析 免疫検査学(唐下先生)
大塚あすか 三浦美紀
4.マウス胎生期の心臓におけるLp3/Hapln3及びversicanの発現 臨床病理学(草地先生)
仲里 梢
5.正常マウス眼におけるリミトリンの局在と機能の解析 臨床病理学(草地先生)
森脇香織
6.アザミグリーンを用いたヒト機能未知蛋白質の細胞内局在性に関する解析 遺伝子解析学(石川先生)
金本 優 西澤宏一
7.カイニン酸(KA)腹腔内投与による興奮性神経細胞死モデル
  −C57BL/6JマウスのKA感受性について−
高次機能解析学(岡本先生)
黒木忠治 福山綾子
8.地球にやさしい単純ヘルペスウイルスDNA抽出精製法 ウイルス学(荒尾先生)
向上智佳
9.Bowen病における樹状細胞の分布の免疫組織学的検討 病理形態学(高橋先生)
東 さやか 占部幾子
10.ゲノムの一部が欠落しやすい単純へルペスウイルスの解析 ウイルス学(荒尾先生)
上野浩司
11.生活習慣病の危険因子としての体脂肪率の意義 医療保健情報学(池田先生)
高見奈津子 武井沙織
12.尿路病原性大腸菌の産生するORFU1-3の精製とこれらに対する家兎抗体の作成 細菌学(倉園先生)
尾上真希 永田恭子



【H16年度 後期】

13.Northern blottingを用いたヒト機能未知蛋白の発現に関する解析 遺伝子解析学(石川先生)
繁木麻里 中村衣里
14.cricketRNAi用ベタターの構築 遺伝子解析学(石川先生)
吉浦里恵
15.マウス心臓発生におけるヒアルロン酸結合型タンパクの免疫組織化学的解析 臨床病理学(草地先生)
井元友紀
16.マウス眼毛様体におけるW型コラーゲンの分布と機能について 臨床病理学(草地先生)
末次志穂
17.サルモネラ・エンテロトキシン遺伝子の発現と精製 細菌学(倉園先生)
中川由佳
18.ヒト口蓋扁桃における樹状細胞の免疫組織化学的検討 病理形態学(高橋先生)
金子若葉
19.ラテックス凝集阻止反応を利用した卓上型HbA1c測定(DCA2000)におけるリポタンパク質の影響に関する基礎的検討 臨床化学検査学(一村先生)
飯尾耕治 橋本恵美
20.ヒトパラインフルエンザウイルス3型感染細胞の特異抗体を用いない識別法に関する検討 ウイルス学(荒尾先生)
西谷 文
21.単純へルペスウイルス1型のインシュリン様作用と細胞間直接伝播速度の関係に関する検討 ウイルス学(荒尾先生)
中村知子 森江紘子
22.カイニン酸局所注入による海馬興奮性神経細胞死
  〜FcγRUB欠損マウスとC57BL/6Jの比較〜
高次機能解析学(岡本先生)
妹尾純江 三宅麻子
23.カイニン酸による海馬興奮性神経細胞死の解析
  −γサブユニット欠損マウスとC57BL/6Jの比較−
高次機能解析学(岡本先生)
岡崎麻利
24.冠動脈疾患における脂質代謝異常 医療保健情報学(池田先生)
源河咲子 安友裕喜
25.筋張力測定による筋線維タイプに着目した筋疲労の評価 生体情報解析学(岡先生)
竹内彩子 端山花織
26.脂肪細胞におけるレチノイン酸の組織因子発現に与える影響 血液検査学(中田先生)
木山綾子 下山晴香
27.P.acnes感作による実験的肉芽腫形成の検討U  
            〜感作方法の検討〜
生体機能学(片岡先生)
中村麻衣子 松岡宏樹


〈岡山大学医学部保健学科検査技術科学専攻 2期生 就職・進路状況〉


 進 学 (9名)
      横浜市立大学医学部医学科大学院修士課程
      岡山大学大学院医歯学総合研究科修士課程
      岡山大学大学院保健学研究科修士課程

  就 職 (33名)
    病院関係
      みたき総合病院(三重)
      大阪暁明館病院(大阪)
      小牧市立市民病院(愛知)
      山口大学医学部附属病院(山口)
      倉敷リハビリテーション病院(岡山)
      西神戸医療センター(兵庫)
      坂出市立市民病院(香川)
      愛媛大学医学部附属病院(愛媛)
      新日鐵広畑病院(兵庫)
      倉敷成人病センター(岡山)
      神戸市医師会(兵庫)
      岡山大学医学部・歯学部附属病院(岡山)
      公立八女総合病院(福岡)
      岡山旭東病院(岡山)
      岡山済生会総合病院(岡山)
      社会保険栗林病院(香川)
      長崎大学医学部・歯学部附属病院(長崎)
      広島市立市民病院(広島)
      岡山大学医学部生化学講座(岡山)
      廿日市JA厚生連病院(広島)
      鐘紡記念病院(兵庫)
      香川県済生会病院(香川)
      香川大学医学部附属病院(香川)

    企業・検査センター・研究所・その他
      ロシュダイアグノステイックス(東京)
      京都微生物研究所(京都)
      兵庫県臨床検査研究所(兵庫)
      岡山医学検査センター(OML:岡山)
      マルホ株式会社(大阪)
      山崎製パン株式会社(東京)
      オンコリス・バイオファーマ(岡山)
      舞鶴市市職(京都)
      マルトモ株式会社(愛媛)
以上

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