『岡山大学医学部保健学科検査技術科学専攻第1期生の卒業を控えて』
岡山大学医学部保健学科 中田 安成

 平成10年10月に岡山大学医学部保健学科が新設され平成11年4月に第1期生を迎え、今春には卒業生を送り出すことになりました。更に岡山大学大学院保健学研究科の新設が認められ、26名(検査技術科学専攻の定員は6名)の修士課程入学者を迎えることになっております。昭和39年の医学部附属衛生検査技師学校の開設に始まり、岡山大学医療技術短期大学部、医学部保健学科、大学院修士課程と発展して参りました。現在は2年後の大学院博士課程の新設を目指して準備を致しております。検査技術科学専攻の専任教官は教授8名、助教授4名、助手7名で、専門分野も臨床検査技師6名を含め、医学系から工学系まで幅ひろく揃いました。これでコメディカルスタッフの一員として活躍できる人材教育の態勢が整いました。今後はこれら教育システムのなかで有能な人材の育成が我々教官の責務と考えております。
 一方、卒業生を待っている医療環境は厳しさを増しており、昨年の医療報酬の改定は検査室の環境をも一層厳しいものとしております。今後も特定機能病院の診療報酬包括化、DRG/PPSの導入などと決して明るくはありません。しかし日常診療行為における臨床検査の重要性は増しており、「患者さんのため」「効率の良い検査」を考えながら日常業務に励み、医療環境の整備に協力する必要があります。そのためには日々常に学術活動を通じて自己研鑽に努める事が肝要となりましょう。そうした中、日本臨床検査技師会は昨年9月、日本学術会議より「学術研究団体」として正式に認められました事は誠に喜ばしいこととお慶び申し上げます。医学の進歩に対応しながら学術面にも貢献していただきたいと存じます。
 医学部保健学科としては人間的にも学問的にも有用な人材の育成と共に3年次編入、大学院への社会人入学、生涯教育のお手伝い等を通じて先輩諸兄姉のお役に立ちたいと考えております。大学院教育においては臨床現場に研究テーマを求め、日常検査業務の中での問題点について現場の卒業生、大学院生、教官による研究チームが組織され、医療現場に立脚した研究を通じて医療に貢献出来ることを望んでおります。あらたま会会員の皆様方の益々の御活躍をお祈りするとともに、今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


同窓生だより

『1年を振り返って』
医療短期大学部12期生 田中 梨佳 (落合病院)

 この1年間を振り返ってみて、今年もあっという間に終わろうとしているなあと思います。就職して2年目、今年もいろいろなことがありましたが、1年目より仕事にも慣れていろいろなことを考えることができたように思います。1年目は、右も左もわからない土地に来て、見るもの全てが新鮮で毎日が驚きと発見の連続でした。仕事面では、毎日毎日新しいことを教わってメモを片手に、時にはパニックになりながらもいろんなことを覚えていくことに、社会人になったことをしみじみと実感させられました。毎日がめまぐるしく過ぎて行き、学生時代に先生から言われていた『考える検査技師』の“考える”という余裕もなく、気付いたら1年が終わっていました。
 2年目になった今は、周りを見渡す余裕もでき、1年目より少しは成長できたかなと思います。検査技師として検査データーを出すだけでなくその向こうにあるものや、ドクターが何を意図して検査を出しているのかということを考えるようになりました。また、たくさんの患者様と接する時も心に余裕を持つことができるようになりました。土地柄、高齢者が多く、たくさんのおじいちゃん、おばあちゃんと接しているうちに生活のマメ知識や昔の話をおしえてもらうこともできました。でも、高齢者が多い分、“老いていく”ということや“死”ということに直面することが多く、自分もいずれ歩んでいくことなのでとても考えさせられました。
 年月というものは早いもので、4月からは3年目になります。社会人になってから1日1日がとても早く過ぎていき、時間の大切さがよくわかりました。だから、今、自分にとってしたいことは何か、しなければいけないことは何か、できることは何かということを見極めて、1日1日を大切に次の1年も実りあるものにしていきたいと思います。

 

『10年を振り返って』
医療短期大学部4期生 大原 弘美 (松江日赤病院)

 病院に就職して、早10年が経ちます。私にとっては、あっという間の10年でした。就職したての頃は右も左も判らず、その日の仕事をこなすのが精一杯で、家に帰れば“バタンキュー”という生活でした。一年目は、生化学検査に配属され、仕事のペースについていくのが大変でした。大学では、すべて基礎から勉強し、実習も用手法で検体を一本づつ測定するので、病院の検体の量、流れ作業を見たときには、ここは工場か?と思いました。「正確かつ迅速に」、言うのは簡単だけど、実際に行うのは大変なことだと感じました。失敗も何度かありました。一度した失敗は二度と繰り返さないようにと思いつつ、また同じ失敗をし、痛い目にあったものです。
 生化学検査から生理検査に配属がかわり、患者さんに接するようになってからは、検体検査では味わえなかった、患者さんの一人一人の顔が見えるようになりました。こちらが何気なく言った一言が、患者さんを不安にさせてしまうので、言葉遣いには気をつければ、と思うと言葉少なになり、逆に患者さんを不安にさせてしまったり、ちょっとしたことで喜んでもらえたりと、世の中には、いろんな人がいるものだなあ、と改めて思うようになりました。私は、就職の面接の時に、生理検査だけはやりたくないと、えらそうに言っていましたが、今では配属されて良かったと思っています。
 就職してから、10年間、社会人として、今思うことは、仕事ができるのも大事だけど、人間関係をうまくやっていくことも大事だということです。それも、仕事の一つだと思います。10年といえども、約40人いる当院の検査部の中では、私はまだ、下から4番目で、新人気分が抜けてないように思いますが、これからも、新人の時の緊張感、好奇心をもって、仕事に取り組もうと思います。

 

『卒後20年』
臨検9期生 岡村 綾子 (金城大学社会福祉学部)

 岡大の臨床検査技師学校を卒業して20年が経とうとしている。大阪生まれの私が初めて大阪の地を離れ暮らしたのが岡山であった。卒業後は再び大阪に戻って就職していた。
 現在石川県松任市の大学に勤務して丸3年になろうとしているが、石川県で勤務する際に、20年ぶりに大阪を離れることになるなと思った。岡山に行ったときも石川に来たときも人が少ないと感じたし、全体的にのんびりしているように思えた。大阪と比較してみると岡山も石川もあまり差がないので、久しぶりに大阪を離れて暮らしていても改めてあまり驚くことはなかった。
 ところが、石川に来て初めて経験することになったことがある。それは、雪かきである。大阪では、2、3センチも積もれば、「雪が降った」と大騒ぎするが、石川の人に言わせれば、5、6センチぐらいでは「積もったうちに入らない」とのこと。それが、石川に来た最初の冬のある日のこと、一晩で50センチ以上も雪が積もった。このような雪は、スキー場でしか見たことがなかったので、部屋の中から雪を見たときは、少しワクワクしていた。しかし、実際に雪かきをしてみると、積もってすぐの雪は柔らかいが、半日以上経つと下の方の雪は、上の雪の重みで「締まった」雪になる。そのため雪は固くて重いので、雪かきをするのは重労働だと身をもって体験することが出来た。もうひとつ初めて体験することになったのが、雪道での運転である。これは、雪が降っている時の方が運転しやすい。というのは、積もった雪の上を車が走り、雪を踏み固める。その雪が明け方の冷え込みで路面が凍結するとスリップしやすくなるので、運転が難しい。
 この原稿を書いている今も、外では雪が降り続いているが、どのくらい積もるのだろうか。また筋肉痛になるほど雪かきをしなければならないのだろうか。

 

『卒後30年 −友との別れ』
衛生検査7期生 橋口 正大 (福山市民病院)

 早いもので衛生検査技師学校を卒業し30年が過ぎた。いつの間にか歳も50を超え、同級生には孫のできた者もいる。そしてこの歳になると悲報に接する機会も増えてきた。そのような中、昨年は自分より年下の二人をやりきれない思いで送らねばならなかった。
 その一人が衛生検査8期生でわたしと同じ職場で働いていた近藤和子(旧姓 森永)さんである。彼女とは学生時代からの付き合いで、当時からよく笑う明るい性格で、何事にも前向きに取り組んでいた。社会に出てからもその姿勢は変わらず、人の嫌がる面倒な仕事でもてきぱきとこなし、医師をはじめ病院スタッフや患者さんたちにも好かれ信頼されていた。特に最後の3年間ほどはわたしと同じ分野を担当していて、血液検査に加えて、尿沈渣、細胞診を勉強中で、解らない細胞があると納得できるまで質問してきて顕微鏡を覗いていた。
 そんな彼女が突然病魔に冒され、1年あまりの病との闘いのあと天へと旅立っていった。入院中、ベッドに横たわる彼女を見るのは正直つらかった。しかし彼女自身は闘病中も職場復帰を胸に、つらい治療に耐えながら懸命に頑張っていた。その甲斐あって一度は職場復帰を果たした。あの日、検査室に白衣姿で戻ってきたときに見せた笑顔をわたしは忘れることができない。
 彼女がいなくなって改めてその存在の大きかったことを思い知らされている。今、当検査室に彼女の姿は無いが、彼女が身をもって教えてくれた仕事に対する真摯な姿勢はみんなの胸にしっかりと焼き付いていることと思う。その思いを忘れずに日々の検査に携わっていきたい。
 近藤さん、ありがとう。 どうぞ安らかにお眠りください・・・
 付記:近藤さんが病に倒れる一月ほど前に、7期生と8期生で同窓会をやろうと計画中でした。7・8期生のみなさん、現在の連絡先を小川夫妻にご連絡ください。 (Tel.086−287−2764)


卒業生だより

『大学時代から未来へ』
松崎 俊樹

 平成11年度に岡山大学に入学してから4年の月日が経ち、卒業という大きな人生の転機を迎えることになりました。この4年間で様々な知識や経験、そして多くの友人を得ることができて非常に満足しています。
 私達は四年制の保健学科の一期生として入学し、新しい可能性へ向けての“開拓者”として期待をされてきました。同級生の進路の話を聞いていると、医療関係の職業だけではなく公務員や一般企業などへの就職を希望している人がいたり、さらに自分の能力を高めるべく大学院への進学や他学部に編入を考えている人もいます。まさに“開拓者”として保健学科の可能性と自分の将来を切り拓いていくことでしょう。
 しかし、それは自分一人の力では成しえることはできません。友人や家族、先生方と力を合わせることが大切だと思います。また、先輩方の多方面の御活躍により私達、学生が支えられていることも忘れてはいけません。先輩方から受け継いだものに私達の挑戦を加え、新しい何かを後輩に残していきたいと考えています。
 これから私達は学生という守られた立場から社会へと巣立っていこうとしています。それはとても勇気が必要ですし、どのような困難が待ちかまえているかわかりません。しかしそれに対して逃げることなく立ち向かうこと、未来に進むためには耐えなければいけない今があることを私達は学んできたはずです。何年後かの同窓会でお酒を酌みかわし、お互いの進んだ道について話せるのを楽しみにしています。
 最後になりましたが、この4年間で多くの人に助けられて成長できたことを深く感謝し、この場を借りて御礼申し上げます。

 

『卒業によせて』
池田 明子

 今回この「あらたま会」への寄稿文の話をいただき、改めて自分の大学生活四年間を振り返ってみることにしました。医療技術短期大学から保健学科へとかわり、私は一期生として入学することになりました。受験の面接の時「どうしてこの大学を選んだのか。」という質問に対し「一期生として自分達で新しいものを築いていきたい。」と答えたことがなつかしく思われます。大学へ入学してからは毎日がとても新鮮でした。例えば親元を離れての一人暮らしからは様々なことを学びました。一人で生活をすることでの孤独、家事の難しさ、自己管理の難しさなどを体験することで両親・家族の存在の大切さを改めて実感することができたと思います。他にもたくさんの
経験によって成長してくることができましたが、私の大学生活の中で一番重要な経験は部活動だったと思います。今だからいえることは、私はバドミントン部に入部して本当によかったということです。先輩、後輩にも恵まれ、特に同学年の友人によって私は支えられてきました。楽しい時、悲しい時、つらい時をいっしょに過ごしてきた友人達は本当に私にとって必要な存在です。厳しい練習もありましたが、あきらめずやり続けたことは自信にもつながりましたし、根性もついたことだと思います。部活動ならではの礼儀というものも学びましたし、私はこの部活動でこれから社会へ出ていくための基盤を築くことができたように思います。
 早いもので私も卒業することとなり、社会人となることになりました。安全で守られた環境から全く未知の新しい環境に向かうことに対しての不安はありますが、今の自分があるのは様々な経験・人々に支えられてきたということを励みに今度は自分も人の為になるような事を社会へ出てやっていきたいと思います。最後に今までお世話になった先生方、暖かく見守っていただき本当にありがとうございました。


〈岡山大学医学部保健学科検査技術科学専攻 1期生 卒業研究テーマ〉

【H14年度 前期】

1. Rat心筋梗塞におけるECM分子の経時的定量発現の解析 本田 千春、松崎 俊樹
(臨床病理学班、草地先生)
2. 喘息マウスモデルの作製とその解析 中屋 早貴、吉儀 早苗
(生体機能班、片岡先生)
3. 音楽が脳磁界に与える影響に関する検討 藤平 晴奈、松嶋 夕紀子
(高次機能解析学班、岡本先生)
4. ヒト血液中および尿中HRGの検出と抗HRG自己抗体の検索 佐倉 七絵、樽崎 友佳
(免疫検査学班、唐下先生)
5. 線虫ペルオキシソームタンパク質遺伝子のクローニング 田中 ゆき、和氣 秀徳
(遺伝子解析班、石川先生)
6. コスミドベクターでクローン化した単純ヘルペスウイルスDNA断片と同ウイルスゲノムDNAの培養哺乳類細胞へのco-transfectionに関する検討 篠原 沙織、田中 かほり
(病原生物検査学班、荒尾先生)
7. ALDH2表現型とアルコール摂取および肝機能検査の関連について 寺野 雅美、外薗 聖子
(医療保健情報管理学班、池田先生)
8. 胃癌の発生とそのリスクファクターについての免疫組織学的検討 浜戸 章江、牧田 有美子
(病理形態学班、高橋先生)
9. 血中TIMP、MMP-TIMP複合体の検出 末広 佐智子、廣安 真実
(血液検査学班、中田先生)


【H14年度 後期】

10. サルモネラエンテロトキシンに対する免疫学的検出法の確立 落合 裕隆、後藤 弘美
(微生物学班、倉園先生)
11. サルモネラエントロトキシン精製の試み 田井 里佳
(微生物学班、倉園先生)
12. northern blot法による線虫ペルオキシソーム蛋白遺伝子の発現解析 池田 明子、久保田 美紀
(遺伝子解析班、石川先生)
13. 健康診断で発見される脂肪肝の現状と意義 奧野 京子、斎藤 利江子
(医療保健情報管理学班、池田先生)
14. C57BL/6Jマウス海馬における興奮性神経細胞死 長谷川 益美
(高次機能解析学班、岡本先生)
15. 高・中分化型腺癌と腸上皮化生の関連についての免疫組織学検討 伊藤 明日香、上村 智美
(病理形態学班、高橋先生)
16. ウイルスが自己の増殖前に始めている宿主細胞への働きかけ 京嶋 都和、黒木 なつ美
(病原生物検査学班、荒尾先生)
17. 筋内挿入型プローブによる筋血流量と活動電位伝播速度の計測 井上 文子、梅本 千佳
(生体情報解析学班、岡先生)
18. Circulating DNAのクローニングと解析 池田 亮、河野 真二、関藤 恭弘
(免疫検査学班、唐下先生)
19. ラット実験的心筋梗塞におけるECM分子デコリンの発現動態
  −薬剤の与える影響について−
凪 幸世
(臨床病理学班、草地先生)
20. 胃癌症例におけるEBウイルス感染のin situ hybridizationによる検討 株本 祐子
(病理形態学班、高橋先生)
21. 電気泳動法によるヒト血清LDLサブクラスの分離条件の基礎的検討 青江 伯規、上野 友愛
(臨床化学検査学班、一村先生)
22. 血中TIMP検出のための基礎検討 岩戸 美保、加藤 順子
(血液検査学班、中田先生)

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